ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ガルヴェイアスの犬

2019-04-15 17:27:06 | 読書
ジョゼ・ルイス・ペイショット『ガルヴェイアスの犬』





 表紙に描かれた、大きな黒い犬が不気味。

 版画特有のインクのかすれが、犬の体から死臭をまき散らしているように見える。


 舞台はポルトガル。名も知らない小さな村。

 その村の外れに、宇宙から謎の物体が落ちてくる。

 衝撃で、カフェの窓ガラスが砕け散ったほど。

 村人たちは、恐る恐る巨大な穴をのぞきこむが、強烈な熱と硫黄の匂いで近づけない。

 そのうち、彼らは穴のことも、中にいる何かのことも忘れてしまう。

 微動だにしない、穴の中の名もない物(生物なのか?)の存在は、読んでいる間、ずっと頭の片隅にこびりついている。



 物語は、さまざな村人たちの日常が綴られていくかたち。

 前に登場した人が、別の人の生活にちょこっと姿を表して、関係が少しずつ見えてくる。

 時間のずれがあるので、途中になっていた出来事のその後が、別の人物から語られたりする。

 ところどころに、名もない物が放つ硫黄の匂いが不快、という記述が出てくる。

 けれども、名もない物の存在が忘れられているので、住人はその匂いを自然に受け入れている。

 村全体が、独特な何かで覆われている感覚になる。


 表紙の絵から感じた匂い、文中に広がる硫黄。

 文字から匂いは漂ってこないのに、鼻の奥が濁ったような状態が続く。

 実在するというこの村・ガルヴェイアスの名前は、匂いの記憶とともに、永遠にぼくの頭から消えることはないかもしれない。


 カバーイラストはタダジュン氏。(2019)




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