クレア・ノース『ホープは突然現れる』
この物語には悲しさが充満している。
それは主人公の孤独が原因だ。
普通の孤独ではない。
ありえない絶望的な孤独。
主人公ホープは、クレア・ノースの小説に共通する特異体質の人。
彼女は人から忘れられてしまう。
忘れられる時間はだんだん早くなり、30秒も彼女から目を離せば、容貌だけでなく存在そのものを忘れられてしまう。
親からも忘れられてしまう場面は、読んでいて衝撃が大きい。
家に見知らぬ他人がいると思われ、ホープは家を出ざるをえない。
人との永続的な関係を築くことができない。
学校、職場という人の集まりに属することができない。
彼女の存在が確かなのは、ネットの中だけだ。
文字の記憶は人から消えることがない。
彼女は一度だけ、同じ体質の男に会ったことがある。
自分が相手のことを忘れてしまうのだ。
しかし再会した時、彼は人から記憶される人間になっていた。
彼が受けた「治療」の仕組みを知りたい。
人に覚えてもらえる体になりたい。
ホープは、その「治療」に行き着くための自己改革アプリのデータを盗み出す。
完璧な人生を提示するというアプリは、世界を画一的な人間ばかりのグロテスクなものに変えようとしていた。
ホープのことを忘れない唯一の人がいる。
それは、遠くに見える小さな灯りのように、彼女に希望を与えはしないのか。
少なくともぼくには、その人との触れ合いは、束の間、正気に戻れる場面なのだった。
装画は榎本マリコ氏、装丁は大原由衣氏。(2023)
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