ドロレス・ヒッチェンズ『はなればなれに』
新潮文庫の海外名作発掘シリーズは、帯に小さなロゴが入っている。
ほかの文庫本との違いはそこだけだ。
版元のHPを見ると、いままで翻訳されたことのないエンタメ小説という緩いくくりらしい。
そこに「古い」は入っていないが、執筆されてからある程度年月が経っているからこそ「発掘」なのだろう。
この小説は、1958年にアメリカで出版された。
それが今年初めて翻訳された。
65年間どこに隠れていたのだ?
これほど面白い小説が、誰にも気づかれず放置されていたことに驚く。
前科のある22歳のスキップとエディは、手に職をつけるため学校に通っている。
しかし、スキップは短絡的な考え方しかできず、犯罪行為に対して躊躇がない。
大金の匂いを嗅ぎつけると、エディと17歳の少女カレンを巻き込み、未亡人宅へ押し入る計画を立てる。
穴だらけの計画は、やがてプロともいえる犯罪者の知るところとなり、若僧のスキップは弾き出されてしまう。スキップは反発し、裏をかこうとするのだが。
ほぼ理解不能のスキップに対して、エディとカレンの心の動きには、時に歯痒く時に同情し、2人の成り行きを見守る。
タイトルの『はなればなれに』は、この小説を原作としたゴダールの映画タイトルと同じで、原題の『Fool’s Gold』とは雰囲気が違う。
犯罪小説としては似つかわしくないが、感情の絡みが見える『はなればなれに』は、この小説にはぴたりと合っていると、読後感じるのだった。
装画はQ-TA、装丁は新潮社装幀室。(2023)
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