エドウィージ・ダンティカ『ほどける』
長く束ねた髪。
ほっそりとした体つきの後ろ姿。
白いシャツは輪郭があやふやで、背景に溶け込んでいきそうだ。
タイトルの『ほどける』は、表紙に描かれた人の黒髪の上で、ほかを圧倒して白く浮き出ており、繊細なカバーの中で力強い印象を与える。
両親と双子の姉妹が乗る車が、突然対向車に追突される。
意識を取り戻した妹のジゼルは、周囲の人たちの会話を理解できるが、体を動かすことも話すこともできない。
会話の端々から、姉のイザベルだけが亡くなり、自分が姉と間違えられていることを知る。
ジゼルはイザベルを思い出す。
生き生きと描写されるイザベルは、活発で魅力的な女の子だ。
2人でタイムカプセルを作ったとき、イザベルはこんな手紙を入れる。
「未来さま、
わたしを茫然とさせてください。
びっくりさせてください。
仰天させてください。
大喜びさせてください。
驚かせてください。
驚嘆させてください!」
亡くなった人を思い出すと、不思議と心が落ち着くことがある。
振り返る些細な会話の中に、生きているぼくにとって糸口になるような暗示を感じたりする。
ジゼルとイザベルの関係は、双子だっただけにより強いものだったはずだが、時間の経過とともにほどけていく。
しかし心の中の存在は決して消えることなく、むしろ確固としたものになっていくのかもしれない。
装画は塩月悠氏、装丁は水崎真奈美氏。(2022)
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