ボフミル・フラバル『わたしは英国王に給仕した』
カバーのイラストが可愛らしい。
背筋をピンと伸ばした給仕が、ドームカバーがのったトレイを指3本で持ち、顎を上げて澄ましている。
明るく賑やかな色合いが、楽しそうな物語をイメージさせる。
ホテルのレストランで、給仕見習いとして働き始めた少年。
職場を移り、少しずつ出世していく半生が綴られている。
イラストのように、コミカルで、楽しい雰囲気に満ちている。
ちょっと嫌な人も登場するけれど、愛に溢れた安心感がある。
ところが、暗い影が少しずつ広がってくる。
戦争が引き起こす混乱と、露わになっていく人間の醜さ。
辛い出来事を経験し、年を重ね、かつての少年はホテルのオーナーにまでなる。
しかし、心は満たされない。
他人と人生に対して理解をしつつも、諦めの気持ちが強くなり希望を失っていく。
それでも、エチオピア皇帝に給仕し勲章をもらったことの誇りはなくさず、それがこの物語の愛らしさを最後まで支える。
カバーデザインは加藤賢策氏、カバー装画はアイハラチグサ氏。(2019)
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