ジャニーズ事務所の東山紀之社長は2日の会見で、「ジャニーズ」という看板を掛け替えて会社の再生を誓った。
アイドル業界を深く知るジャーナリストは「日本のエンターテイメント業界の最大のブランドが終わった」とまで言い切る。
東山氏が語った「新しい未来」は切り開けるのか。スポンサー離れを食い止めることができるのか。各分野の専門家に、会見の受け止めを聞いた。(戎野文菜、小寺香菜子)
記者会見するジャニーズ事務所の東山紀之社長(右)と井ノ原快彦氏=10月2日、東京都千代田区で
2日の会見でジャニーズ事務所が語ったことは…
・17日付で「ジャニーズ」の事務所名を「SMILE-UP.(スマイルアップ)」に変更し、性被害者の救済に専念する。社長は東山氏が務める
・被害者救済委員会に補償を求めているのはこれまでに325人。補償は11月から始める
・タレントマネジメント機能は新会社に移す。社名はファンクラブを通じて公募する
・新会社の社長に東山氏、副社長に井ノ原快彦氏が就任する
・藤島ジュリー景子氏は代表権を返上、スマイルアップの株式を100%保有し取締役にとどまる
◆スポンサー 直ちに戻るとは…
「今回の会見で直ちにスポンサーが戻ってくるとは考えにくい」。広告会社出身で、桜美林大の西山守准教授(広告・マーケティング)は、スポンサーの受け止めをこう分析する。
事務所名を当面存続するとした前回9月の会見は、多数の批判を浴びた。所属タレントの広告起用の見直しを表明するスポンサー企業も相次いでいる。
西山氏は「芸能事務所と、被害者補償という2つの活動が、相互に影響を及ぼし、それぞれの動きを鈍らせていた」とし、新会社を設立して補償と芸能マネジメントを切り分けたことは評価する。
それでもスポンサーが二の足を踏むだろうとみる理由は、発表された新会社の体制だ。
タレント業務を引き継ぐ新会社は、事務所所属の東山氏が社長、元V6メンバーの井ノ原氏が副社長を務める。再生を託す新会社トップを内部から登用することに、「本当に喜多川氏と決別できるのか」と疑念を呈す。
「喜多川氏との決別を宣言するなら、タレント業務を引き継ぐ新会社は外部から経営者を招くべきだ」
スポンサー離れを食い止められるのか。西山氏は「取引先企業からすれば、今回の会見を聞いただけでは『ジャニーズはもうリスクがないので起用しても大丈夫』とまでは言えない状況だ」と指摘する。
◆タレント「退所ドミノ」の恐れも
ポピュラー文化やメディアに詳しいジャーナリストの松谷創一郎氏は、「ジャニーズ」というブランド消滅による所属タレントへの影響を指摘する。
この日の会見後、ジャニーズ事務所は11月30日をもって、所属する俳優の岡田准一氏が退所すると発表した。
松谷氏は「日本のエンターテイメント業界の最大のブランドが終わることで、今までジャニーズのタレントが受けていた恩恵はなくなる。今後は忖度してもらえなくなるし、他のグループとの抱き合わせで仕事が増えることもない」と予想。「性加害問題の発覚後、ジャニーズに入りたいと思う子どもの数は減っているはずだ。事務所は弱体化していくだろう」とみる。
今回の会見で、タレント業務を行う新会社では、タレントにマネージャーがつかず、あくまでタレント主導で仕事をする「エージェント契約」となることが示された。一般的に、エージェント契約はスケジュール管理やトラブル対応などを自分で行う。仕事を自由に選択できる反面、知名度や実績がないと仕事が減るリスクもある。
松谷氏は「所属タレントの中には『自分がやりたかったことをやれる』と受け取る人もいるかもしれないが、新会社には移らず辞める人や他の会社に引き抜かれる人も出てくると思う」と指摘。所属タレントの「退所ドミノ」に拍車がかかる可能性についても言及する。
エージェント契約 営業やギャラ交渉から、スケジュール管理、トラブル対応まで全て事務所が行うマネジメント契約に対し、営業やギャラの交渉だけを事務所に代行してもらう契約。仕事を自由に選択でき、事務所と対等な関係になる反面、知名度や実績がないと仕事が減るリスクもある。2日の会見で、東山氏は「この制度においては、すべてを会社に委ねたり、縛られたりすることなく、タレント自らが活動の方向性に応じて自分自身で活躍の場を求めていくことになる」と説明した。
◆不祥事対応のプロ「補償、誠実性に欠ける」
企業のコンプライアンス問題に詳しい中川総合法務オフィスの中川恒信代表は、今回の会見を「50点」と採点する。
企業や自治体にアドバイスしてきた経験から、不祥事対応で最も重要なのは「誠実性」と説く。
不祥事対応のプロから見て、2日の会見で評価したのは「ジャニーズ」という名称を変更する決定だ。「もう名前を聞きたくない人はたくさんいる。ジャニーズの名前をなくすのは、被害者に寄り添っている」とした。
それでも50点と採点した理由は、被害者への補償の対応が「誠実性に欠ける」と映ったからだ。
「被害者救済は迅速な対応が求められる」という中川氏。「間違いなく加害があったと認識しているのであれば、被害者に一時金を渡すといった対応をすぐにやるものだ。早急に救済しないのは誠意がないと受け止められる」と話した。