国土交通省海事局が、2018年10月末までの4年余り、所管の外郭団体を経由し、法律で人事交流が認められていない日本財団(東京)に職員を出向させていたことが分かった。
財団は出向を受け入れていた間、海事局から総額5億円余りの事業7件を独占的に受注していた。
競艇事業を主な収入源とする日本財団。その競艇の監督官庁に当たるのが海事局だ。脱法的な二重出向から浮かび上がるのは、両者のもたれ合いの関係だった。(中沢誠、宇佐見昭彦)
◆出向したその日に再出向
取材のきっかけは、国交省海事局から所管の外郭団体に出向した職員が外郭団体には自席がなく、日本財団の肩書きで財団のオフィスで働いているという話を耳にしたことだった。
確認しようと、本紙は国交省や外郭団体に人事異動に関する情報公開請求を行った。
2カ月後に開示された文書には、噂話を裏付けるような記載があった。海事局のある職員の場合、人事異動の記録を突き合わせてみると、いったん外郭団体の「海上・港湾・航空技術研究所」(東京)に出向。同じ日、外郭団体から日本財団に再出向していた。
こうした二重出向は2014年10月から始まっており、海事局の中堅クラスと若手の2人ペアになって、2年前後で出向者が入れ替わっていた。
出向期間が終われば、いずれも外郭団体を経由して、再び国交省職員に復帰していた。復帰先もほとんどが海事局で、中には後に競艇事業を監督するモーターボート競走監督室長に就いた出向者もいた。
国交省の人事異動発令の文書:2016年3月31日付で、海事局付だったA氏が国交省を辞職
外郭団体の人事異動通知書:A氏が4月1日付で海事局から出向し、外郭団体に採用
外郭団体と日本財団の出向協定書:外郭団体に出向したA氏が4月1日から日本財団に再出向
省庁など国の機関と民間企業との人事交流は、一般的に、官民人事交流法という法律で認められており、中央省庁から民間への出向は珍しいことではない。海事局から日本財団に直接出向するほうが自然だ。
二重出向にしても、法令で禁止されているわけではないが、雇用関係や労務管理が複雑になるので、労働契約上、好ましいやり方ではないとされている。
なぜ、わざわざ外郭団体を経由させる必要があったのか。敢えて手続きを煩雑にして、かつグレーな手法を使わなければいけない理由はどこにあるのか。
官民人事交流法 国の機関と民間企業との人事交流について定めた法律。双方の組織の活性化と人材育成を目的に、2000年に施行された。交流期間は原則3年以内。2022年は国から民間に37人を派遣し、民間からは378人を受け入れた。民間への派遣数は経済産業省が8人で最も多く、続いて国土交通省と厚生労働省の5人ずつだった。
◆「諸般の事情」突然の打ち切り
外郭団体の開示文書から、もう一つの事実が判明する。
2014年10月から始まった二重出向が、18年10月で途絶えていたのだ。
外郭団体から日本財団へ2018年10月末で出向を解除する旨を伝えた文書
外郭団体は2018年10月23日付で、日本財団宛に「出向の解除について」という1枚の文書を作成していた。もともと「2019年3月31日まで」となっていた出向期間を18年10月末で打ち切ることを通告する内容だった。
文書には、打ち切りの理由として「諸般の事情」としか書かれていなかった。この後、両者の間は出向から業務委託契約に切り替わっていた。
諸般の事情とは何なのか。なぜ契約途中で打ち切ったのか。ますます疑念が深まった。