天と地の間

クライミングに関する記録です。

由布川遡行 完結

2015年10月25日 | 
10月上旬に由布川の計画を立てたが、急に気温が下がり、低体温症になるかもなあと、前日に取り止めた。
もう今年はチャンスがないだろうと思っていた矢先、再び暖かくなった。といっても10月下旬だ。水に入れば寒かろう。
しかし、今行かなければ来年はパートナーのウエノさんはおそらく時間が取れないだろう。私もどうなるかわからない。
そう考えると、今年最後のチャンスに賭けたい。
問題は寒さ対策。ウエットスーツを買おうかかと調べたら、安いもので防水仕様が3万、普通のもので1万。1回こっきり
にこの出費はもったいない。やむなく、借りたトライアスロン用のスーツで行くことに決めた。だが十箇所以上穴が空
いて保温性は期待できない。転んだ折にショック吸収には役に立つかといったところだ。
他に保温の足しにでもなればと防水スタッフバックにホッカイロを入れて対応することにした。もっとも空気が入らな
ければ酸化が起きない。登攀直前に閉めれば短時間であればなんとか持つだろうとの希望的観測である。

10月24日土曜日
少しでも気温が上がるのを期待して、10時過ぎにに入渓地点の椿の駐車場で落ち合う。流石にこの時期とあると訪れる
人はまばらだ。用意しているときに来た車は3台程度。


椿の駐車場からの階段。もうここから上りたくはない。

11時、いよいよ入渓。足を入れた時点で前回よりも冷たいのを感じる。このまま入渓が入水になるのではと若干不安に
なる。
不安要素はもう一つある。入渓してすぐに見える滝から落ちる水量が多い。前回の倍ほどだ。このところの天気で水か
さが減っているのを期待していたのだが「めくらの滝」の水量が心配だ。この時期は当然、田圃は保水していない。こ
れによる増水かもしれない。
これまで寒さと瀑水にはばまれ、断念したのは3度。さすがに今回は方法を変えることにした。ここまで来た以上、引
き返しは無い。


まだここは明るい。


すでに冷え始めている私。

10分程遡行してたら、蝮に出くわした。後50cmというところ。危うく踏みつけるところであった。カエルを狙っている
のだろうか。そういえばここでは雨蛙をよく見る。気をつけねば。
最初の小滝はフィックスロープが張られている。初めてきた時はフィックスはなく、結構厳しかった箇所だった。誰が
張ったのか無ければ初めてくる人は楽しめるのにと思うが、体力の温存を考えて躊躇なく使う。
入渓から30分。めくらの滝前の最後の陸地に到着。
ここで腹ごしらえ。その後、装備をすべて装着。最後に例のホッカイロを取り出し背中に入れてもらう。
今日の作戦はこうだ。滝の正面突破は止めて、左のクラックを使い、途中からトラバースして滝に向かうというもの。
最も辛いのはビレイヤー。足も届かない場所でのビレイは体温低下をまねき、危ない。そこで先にトップが5m程度登っ
た時点で来てもらい、体を水面から引き上げてビレイの態勢に入ろうと打ち合わせた。しかし、待機場所ではトップが
どれだけ登ったかはセカンドは見えない。そこで10分後にビレイ点に到着とした。

幅2から3m程度の曲がりくねったゴルジュに入る。泳ぐ距離は30mほど。首まで浸かると流石に寒い。ホッカイロはや
はり発熱はしていないようだ。早く瀬のあったところまで行きたい。覚えのある箇所まで来て足で探すがなかなか届か
ない。やっと届いて立った場所は胸元近く。やはり水量は増している。
滝のある方をのぞくと爆音を立てて落ちている。夏の渇水期よりも多い。予定通りのやり方で攻めることにする。
最初に私がトップで登ることにする。滝からややそれているといっても、流れが強くクラックがある箇所に来るまでに
喘ぐ。2個目のカムを噛ませて体を水中から引き上げるでけでも手こずる。早く水中から脱したいという焦りが加わる。


滝を避けてはいるが、瀑風と水しぶきで寒い。

10分程経った頃、打ち合わせ通りセカンドが来た。だが、まだビレイするには低すぎる。しばらく水中でビレイをお
願いする。
やっとトラバースの態勢に入った頃、水中から上がってきてもらう。
ウエノさんは冬壁の中の風雪も闘争心に変えてきた百戦錬磨の人だが、この人をもってしても堪えたようだ。水の中
の寒さは異質だ。ここで長時間水中に入っていると闘争心を萎えさせてしまう。一日に1度の立て直しはあっても2度
目はない。


落ち口はとても突っ込めない噴出しだった。

滝の方へ向かっているリスにハーケンを打ち込むと悪いことにリスは上向きだ。ハーケンにアブミをかけ、だましだ
まし体重をかけたらやはり抜けた。振られながらのフォール。3mほど落ちた。幸いトラバース直前に打ったハーケン
が効いた。ゴボウで上り返し再びハーケンを打つ。いつ抜けるか分からない恐怖におびえながら体重を移して立ちこ
んだ瞬間、またもフォール。支点が抜けてのフォールは気持ちのいいものではない。
またも登り返し、少しでもましなところをと、身体を伸ばして無理な体勢でハーケンを打つ。今度は効いた。だが、
それも何とか体重を乗せられるレベルだ。その支点に体重を預け、滝の落ち口を覗き込むと、水量が多く突破は無理
そうだ。無理して抜き差しならぬ状況になるのは避けなければならない。時間もない。そう判断し、昔の落ち口だろ
うジョウロ状の箇所を使って抜けることに決めた。
だが、ここも悪い。傾斜は強く最後の抜け口がわるそうだ。もうフォールすることは出来ない。慎重に乗っこし、滝
の上に立った時はこれでやっと終わったという感慨で、久しぶりにこぶしが上った。
セカンドが上って来た時が4時40分。これから椿の大橋までまだある。暗くなるまでに上らなければ。ぎりぎりの時
間だ。


すでに暗い。気温も落ちてきた。

由布川遡行はクライミングの要素が強い沢であった。そして流れに逆らう泳力も必要とした。
岩質の悪さは他に類を見ない。凝灰岩というより、成りかけの岩だ。侵食しやすいだけにホールドは乏しく、かつ、
滑りやすい。
ボルトは墜落を止めてはくれない。実際、昔打たれたボルトをつまんで引くといとも簡単にすっぽ抜ける。既存のハ
ーケンはほとんどぐらついている。頼みのカムは0.75以下は用をなさない。
由布川完全遡行の記録は37年前のものが唯一ひとつ。我々はこれを参考にしたが、滝の形状はかなり違っていた。お
そらくは、滝自体が37年前とかなり違ったと思われる。他の沢では考えにくいが、ここ由布川ではありえることであ
る。記録を違ってることで、かえって先が分からず面白みを感じた。
すさまじい勢いで落ちる滝の水圧と脆い岩。その攻略に苦労しただけに今回の完全遡行は感慨もひとしおである。

最後に、われわれは、すべての支点を撤去した。撤去だけは容易でだった。

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