「カラマツの下の花畑」・・・・♪

軽井沢での子供時代に作った落葉松の下の花畑ーー心は今も~!「草花」「99歳の軽井沢物語」「葛西スケッチブック」ほか。  

ふと目が合って

2015-05-22 | ルピナス♪ノート

いつものドラッグストア近くの道を歩いているとき、女の人は「そのこ」に出合ったのでした。
植込みの中を、そのこは、最初は走りかけましたが、すぐにそろりと歩いてとまりました。
とまったまま、こげ茶色の石のかたまりにでもなったように、まったく動きません。
早く時間がすぎてしまうのをじっと待っていようーー小さな頭の中で、そう考えたようでした。
けれど女の人は、そこにじっとしているそのこをもっとはっきりとたしかめたいと思いました。
おどろかせないように体をまげて、花の間からそっと眺めたとき、目と目が合ったような気がしました。
青味がかった黒いつぶらな瞳。

「まあ、こんなところに・・・」
女の人はびっくりして、バッグから、そっとカメラを取り出しました。
そして、2枚ほど写真を撮ると、しずかに歩いて行ってしまいました。

ほんの2-3分のできごとでしたが、ああ、その時間は、そのこにとってどんなに長い時間だったことでしょう。

「こんな時は決して動いてはダメ。何かの陰にかくれてじっとしているのよ。地面にでもなったつもりでね」
何度も何度も言い聞かされてきたその場面に、今、生まれて初めて出合っているのです。
その子はその言葉を思い出して、どきどきしながらじっと我慢していました。

誰もいなくなると、そのこは自分のおうちに駆け込んで行きました。
「おかあさん、おかあさん、わたし約束守ったよ。こわかったけれど、だいじょうぶだったよ!」
ちょっぴり自慢げに、目をくりくりさせてお話ししました。

女の人は、おうちに帰りながら、思いました。
「今でもあのこたちがここにすんでいるなんて、ほんとうにびっくりだわ」
(私がここに引っ越してきたときに、あのこの仲間に初めて出合ったけど、あとは一度だって見たことはなかったもの)
女の人がまだ若いお母さんだったころ、まわりには草原や空き地がたくさんありました。
クローバーの咲く原っぱから、甘い花の香りが風に乗ってきましたし、沼地では、ウシガエルが鳴いていました。
そして、夕方になれば、コウモリだって空をとんでいたのですから。
そのころ、公園で遊んでいた1歳の娘は、いまは、2歳の男の子のお母さんになっています。

いま、ここは、コンクリートばかり・・・マンションだらけになってしまって・・・さっきのこたちは無事に暮らしていけるのかしら。
女の人はふうーっとひとつ、大きくいきをはきました。
でも、すぐに、こう思い直しました。
「だいじょうぶ。きっとうまくいくわ。小さな植込みだって、まだ少しずつ作られているのだし、すみかだって安全なところを見つけていくにちがいないわ。かしこい目をしたあのこならね」

         
         女の人が、その時写した写真です。

コメント (2)
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