カナダ・ケベック州の女学校を舞台にしたヒューマンドラマ、「天使にショパンの歌声を」(La Passion d'Augustine)を見ました。時代の変化によって閉鎖の危機に直面した学校を、先生と生徒たちが音楽の力で救おうと奮闘します。
1960年代、美しい自然に囲まれたカナダ・ケベック州にある女学校。ここは修道院が運営する寄宿学校で、校長のオーギュスティーヌ先生が音楽教育に情熱を注いでおり、前年のピアノコンクールでは銀賞を獲得するほどの実績を上げていました。
しかし近代化の流れの中で、音楽教育や女子教育に対する風当たりは強く、学校は存続の危機に瀕していました。オーギュスティーヌ先生は、修道院の総長に何度もかけあうも理解を得られず、卒業生の父兄でもある名士夫人の力を借りて、生徒たちによる音楽会を開くことを計画。広く学校の音楽活動を知ってもらい、支援の輪を広げようと奮闘します...。
音楽をテーマにした作品が好きなので楽しみにしていた本作。子どもの頃、「小公女」が大好きだった私は寄宿学校という響きに憧れに近いものがあり、「17歳のカルテ」や「モナリザ・スマイル」のような、悩める少女たちが自分の生き方を切り開いていく...というお話に弱いです。
オーギュスティーヌ先生やフランス語の先生、アリスや親友の女の子にも秘められた過去や心の傷がありますが、それらがおおげさに取り上げられることなく、さりげなく描かれているところに、レア・プール監督の細やかな感性と良識を感じました。
女性の立場が弱く、社会進出が進んでいなかった時代の話ですが、この学校が抱えている問題は、実務教育をよしとして教養教育を軽んじる風潮や、女子教育の存在意義が問われている現実など、今の日本における教育イシューにも通じるものがあり、真の人間教育、情操教育とは何か、考えさせられました。
そしてなにより、映画を彩る音楽の数々がすばらしかった! アリスを演じるライサンダー・メナードはカナダを代表する若きピアニストで、映画は初出演とのことですが、感受性豊かな少女を好演していました。コンクールで弾くショパンの別れの曲には、ストーリーとも相まって思わず涙ぐんでしまいましたが、バッハのジャズアレンジも楽しかった。少女たちのコーラスは、まさに天使の歌声でした。
映画を見たら、帰って無性にピアノが弾きたくなって...心地よい余韻とともに、劇場を後にしました。