DVDで見た旧作、3作品の感想です。
オリエント急行殺人事件 (Murder on the Orient Express) 1974
現在公開中のケネス・ブラナー版「オリエント急行殺人事件」を見た後に鑑賞しました。監督は「十二人の怒れる男」のシドニー・ルメットで、名作とよぶのにふさわしい作品でした。オープニングのアールデコ調クレジットからもうわくわく。発端となった事件について、新聞記事など交えリアルに手際よく紹介しています。
それに続くイスタンブール駅での物売りたちや山羊、食材、人々の喧騒から一気に旅の世界に引き込まれました。ポアロが乗客ひとりひとりを取り調べるところは2017年版とだいたい同じでしたが、クライマックスとなる推理の場面にしっかり時間が割かれ、犯人の正体と犯行の詳細、憎しみが胸に迫りました。
ローレン・バコール、アンソニー・パーキンス、ショーン・コネリーなど名作映画のスターたちが勢揃いし、見応えもたっぷり。ジャクリーン・ビセットの花のような美しさは、過去の悲劇をより浮彫にしていたように思いました。イングリット・バーグマンはスターのオーラを消し、意外性のあるチャレンジングな役どころです。
殺人事件ではありますが、動機に納得のいく犯罪であり、ポアロの大岡裁きもあって、ラストはハッピーエンディングを迎えます。軽やかなワルツが流れる中、シャンパンで乾杯し、旧交を温め合い、晴れやかな余韻が残りました。
数々の国際映画賞で高い評価を得た、スペインのヒューマンドラマです。
家族に暴力をふるう父親が嫌で家を飛び出し、都会で一人暮らしているマリア。しかし仕事は長続きせず、バーに入り浸り酒に溺れる毎日。母のようにだけはなりたくないと思っていたのに、結局つきあうのは父のように暴力をふるう男ばかり。そんなある時、父がマリアの街の病院に入院し、つき添う母がマリアのアパートにしばらく滞在することに。
母はマリアの荒んだ生活を心配し、料理や掃除と世話をやきますが、マリアはそんな母が疎ましい...。はじめはマリアのどん底ともいえる生活が見ていてつらく、暗い気持ちになりますが、母ローサがひょんなことから階下の老人と親しくことばを交わすようになってから、おもしろくなってきました。
老人は妻に先立たれ、愛犬だけが話し相手という孤独な生活。やもめ暮らしを見かね、ローサが心配して料理を作り、面倒を見るうちに2人の間に友情のような関係が生まれます。恋愛...とはちょっと違いますが、老人にとってローサは心安らげる存在、ローサにとっても紳士な老人はこれまでの人生になかったときめきを与えてくれたのではないでしょうか。
そしてローサとのつかのまの生活は、マリアの心にも氷が解けるような変化をもたらします。ラストはある意味シンデレラストーリーといえなくもなく、できすぎ...とも思いますが、ローサがマリアに残してくれた贈りものだったのかもしれませんね。
カサンドラ・クロス (The Cassandra Crossing) 1976
ジュネーヴの国際保健機構に侵入したゲリラのひとりが、アメリカ軍が極秘に研究していた細菌兵器の病原菌をつけたまま逃走。ストックホルム行きの大陸横断鉄道に乗り込みます。アメリカ軍大佐は乗客を隔離すべく、列車をポーランドの隔離施設に向かわせるよう指示。しかし真の目的は研究の証拠隠滅を図ることでした...。
オールスターキャストによる鉄道パニック&細菌パニック映画。保菌者と思いっきり接触しているのに感染しなかったり、感染した人がなんの治療もしないうちに自然治癒したり、つっこみどころはたくさんありますが^^; はらはらドキドキと楽しめました。オリエント急行~同様、鉄道旅行の気分が満喫できました。
ソフィア・ローレンの迫力ある美しさ。列車がポーランドに向かうことを知って(強制収容所を思い出し)パニックになるユダヤ人の男性。ヒッピー風の若い男女。大国アメリカの陰謀...など、時代を感じさせるあれこれが懐かしい。ラストは一応の解決を見せるものの、ぞわっと背筋が凍ります。
ジェリー・ゴールドスミスの憂いを秘めたテーマ曲も印象的。パニックの場面ではストラヴィンスキー風?でした。タイトルのカサンドラ・クロスはポーランドの隔離施設の手前に架かる橋の名前。モデルとなっているのはフランスにあるガラビ橋で、エッフェル塔のギュスターヴ・エッフェルが設計したそうです。