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祈りの幕が下りる時

2018年03月06日 | 映画

北参道でお昼を食べながら、時間があるので映画を見に行こうということになりました。お互いの好みがなかなか折り合わず、双方が歩み寄って?決まったのがこちらの作品。北参道から渋谷まではゆるやかな下り坂なので、散策をかねてぶらぶら歩いていきました。

祈りの幕が下りる時

東京都葛飾区のアパートで、身元不明の女性の死体が発見されます。やがて被害者は滋賀県在住の女性と判明しますが、東京で殺された理由がわかりません。捜査が進む中、被害者は中学の同級生で今は舞台演出家となっている、浅居博美(松嶋菜々子)を訪ねて東京にやってきたことが明らかになります...。

原作は東野圭吾さんのミステリー「新参者」シリーズの完結編。原作がすごくおもしろかったので、映画はいいや...と思っていましたが、期待以上におもしろかったです。事件自体が込み入っているうえに、主人公の刑事 加賀(阿部寛)の家族背景もからむので、どうなることかと思いましたが、きれいにわかりやすくまとまっていました。

物語は、ひとことで言えば平成版「砂の器」。まったくつながりのない複数の事象が、やがてぴたりと一点に結びつく展開は、話を知っていても興奮しました。こういう論理の組み立てのうまさは、さすがは東野圭吾さんだなーと思います。ずしりと重い人間ドラマに、東日本大震災や福島原発事故といった時代背景が生きていました。

原作を読んでいる時は、娘に満島ひかりさん、父親に豊川悦司さんを思い浮かべていましたが^^ よく考えれば、明治座の舞台を仕切る演出家に満島さんでは若すぎますね。松嶋菜々子さんはぴったりのキャスティングだと思いました。華やかな中にも影を感じさせる演技がすばらしかったです。

本を読んだのがずいぶん前のことで、担任の先生のことをすっかり忘れていましたが、博美の相談に乗っているうちに、いつの間にか恋人同士になっていたのですね。先生の家族にとってはひどい話ですが、まったく身寄りのない博美にとって、先生はもっとも信頼のおける大人であり、ひとりで生きていく上で必要な存在だったのだと理解しました。

(追記: 担任の先生の設定は、原作と変えてあったようです)

親子の逃避行は、もっともつらい場面ですが、もっとも心揺さぶられる場面でもありました。映画では説明が割愛されていましたが、博美が手掛けている舞台は曽根崎心中を現代に蘇らせた作品という設定でした。逃避行の最後は、すさまじい人生を歩んできた親子だからこそ理解し合えた究極の愛だったのだと思います。

映画ならではといえば、何度も登場する琵琶湖の風景が印象に残りました。まるで海のように広い湖は、とらえどころのない事件の全容を表していたように感じました。一方、日本橋や人形町の街並は、行きつけのお店や知っている場所がいくつも登場し、ほっと心なごむ風景でした。

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