ベニチオ・デル・トロ主演、社会派テイストのヒューマンドラマ。バルカン半島の紛争地域で、人々に衛生的な水を提供するために奔走する国際援助活動家たちのある一日を、コメディタッチで描きます。”国境なき医師団”に所属する医師パウラ・ファリス氏の小説を映画化。
1995年、ボスニア戦争停戦直後のバルカン半島。ある村の井戸に、水の密売でひと儲けを目論む犯罪組織によって死体が投げ込まれ、生活用水が汚染される事態に。NGO「国境なき水と衛生管理団」に所属するマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)たちは、ロープを使って死体を引き上げますが、途中でロープが切れ、死体は再び井戸に落ちてしまいます。
井戸水を浄化するには、24時間以内に死体を引き上げなくてはなりません。マンブルゥたちは代わりのロープを手に入れるため、武装集団がうろつき、地雷の埋まっている危険地帯を探し回りますが...。
本作は、ロープを探して右往左往する、国際援助活動家たちのある一日にスポットを当てています。彼らを取巻く環境の過酷さをさりげなく織り込みつつも、明るくゆるく、ユーモアたっぷりに描かれているところがとてもよかったです。
ここでは安全な先進国とは違うルールと時間が存在し、ものごとはスムーズに運ばず、思いもよらないようなことが起こります。それがわかっているからこそ、彼らは慌てず騒がず、理不尽をユーモアで笑い飛ばすことで日々を乗り越える術を身につけているのだと理解しました。
演じる俳優たちは、ベニチオ・デル・トロほか、ティム・ロビンス、オルガ・キュリレンコ、メラニー・ティエリーと、国際色豊かで個性派揃い。メラニー・ティエリーはどこかで見たと思ったら、”海の上のピアニスト”でヒロインを演じた女優さんだったのですね。ティム・ロビンスは役作りのためか、ずいぶんワイルドな雰囲気になってて驚きました。
本作のおもしろさは、ニュースでは伝わってこない、NGOの活動家たちの日常に触れられること。例えば、田舎道のまん中にどかんと置かれた牛の死骸。ふつうなら左右に避けて通り抜けたくなりますが、これは地雷が仕掛けられているというワナなのだそうです。左か、右か、それとも牛の下か? 黒ひげ危機一髪がリアルにある世界に驚愕しました。
一方、周りがハラハラと見守る中、牛追いのおばあちゃんが、地雷をものともせずに悠々と草原を歩いていくのがおもしろい。牛の後ろについて行けば、少なくとも自分は安全というわけです。この謎のセオリーが、あとでマンブルゥたちを窮地から救うこととなります。^^
また本作では、ロープ同様、サッカーボールがキーアイテムになっていました。いじめっ子にボールを取られた少年のために、彼がかつて住んでいた家を訪れたマンブルゥたちは、そこで思いもよらない光景に出くわします。せっかく少年のために見つけてあげたサッカーボールを彼はなぜ手放したのか? そんなところにも現地の人々を取巻く現実が感じ取れました。
お役所仕事の国連との確執もさらりと描かれていましたが、トイレもシャワーもない荒涼とした山岳地帯で、前向きに活動を続ける彼らがとてもかっこよかった。ラストに流れる「花はどこへ行った」が本作のテーマを雄弁に物語っていました。