セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

オーケストラ・クラス

2018年09月08日 | 映画

子どもたちに楽器を贈呈してプロの音楽家が音楽を教える、Demos(デモス) というフランスの音楽教育プロジェクトを題材にしたヒューマンドラマです。

オーケストラ・クラス (La Melodie / Orchestra Class)

パリ19区にある小学校に、音楽教育プロジェクトの講師として派遣されたバイオリニストのシモン。しかし子どもたちは片時もじっとできず、話は聞かず、けんかが始まり、まるで授業になりません。そんな中シモンは、アーノルドという少年にバイオリンの才能があることに気がつきます...。

音楽を題材にした作品が好きなので楽しみにしていました。ストーリーとしては、2年前に見たブラジル映画「ストリート・オーケストラ」(The Violin Teacher)によく似ています。つまり、仕事を失ったバイオリニストがやむなく学校の音楽指導の職についたものの、子どもたちが音楽によって成長していく姿を目にして、自らも変わっていくという物語。

ストリート~の舞台は、常に命の危険にさらされているサンパウロ最大のスラム街でしたが、本作のパリ19区はそこまで治安は悪くなさそう。移民の街ということですが、地図で確認するとパリ中心部からもそれほど遠くなく、生徒のアーノルドが住む集合住宅の屋上からはキラキラ輝くエッフェル塔が見えました。

バイオリンを教えるために教室にやってきたシモンは、初日から子どもたちの厳しい洗礼を受けることとなります。シモンが一言話すごとにまぜっかえし、すぐに犬猿の仲のサミールとアブとの言い争いがはじまります。

ある時あまりに態度が悪いサミールに、シモンがつい胸倉をつかんで教室から追い出してしまいます。感情的になり「彼はこの授業を受けるべきではない」と怒るシモンに対し、「これは彼のような生徒のためのプロジェクトです」という担任の先生のことばにはっとしました。

シモンは、息子が暴力を振るわれたと怒るサミールの父親を訪ね「サミールはこのオーケストラになくてはならない一人です」と謝罪しますが、その時のサミールの誇らしげな顔が心に残りました。子どもたちはやはりほめられ、認められることでやる気を起こし、伸びていくのだと再確認しました。

それから印象的だったのは「何か弾いて」という子どもたちのために、シモンがメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲を弾き始めるシーン。いつも騒がしい子どもたちがしんと静まり返り、真剣なまなざしでシモンの音楽に聴き入ったのです。音楽は時に、百のことば以上に人の心を動かすことができるのですね。

シモンは、クラスに途中から入ってきた少年アーノルドに、バイオリンの特別な才能があることに気がつきます。アーノルド自身もバイオリンが大好きで、家に帰ると屋上に上り、誰よりも熱心にバイオリンの練習をしているようです。シモンはアーノルドに、コンサートでソロを弾く大役に抜擢します。

このプロジェクトの目的は、なかなかクラシック音楽に触れる機会のない子どもたちに、音楽の喜びを知ってもらうこと。そしてこのプロジェクトによって、アーノルドのような才能を見出し、支援していくことができるのです。社会全体で子どもたちを育て、文化を育てるフランスの取組みに感銘を受けました。

そしていよいよ迎えるコンサート。会場はパリ19区に新しくできたすばらしい音楽ホール 、フィルハーモニー・ド・パリ。曲目は、リムスキー・コルサコフの”シェヘラザード”(の最初の部分)。アーノルドのソロもばっちり決まり、子どもたちのがんばりに心の中で惜しみない拍手を送りました。

コメント (6)