クリスマスの夜、国立劇場にチャップリン歌舞伎「蝙蝠の安さん」(こうもりのやすさん) を見に行きました。
今月の東京の歌舞伎は、大胆な新作3本です! 歌舞伎座では、玉三郎さんの白雪姫、新橋演舞場では風の谷のナウシカ。そして国立劇場ではチャップリンの「街の灯」を原作とする蝙蝠の安さんが上演されました。主演は松本幸四郎さんです。
チャップリンの街の灯が大好きなので、最初に新聞で知った時から気になっていましたが、一抹の不安も覚えていました。でもアメリカで映画が公開された1931年に本作が上演されたこと、主演の幸四郎さんが長年思い焦がれていた作品であることなど知って、どうしても見てみたくなりました。
国立劇場のロビーには、幸四郎さんとチャップリンが並ぶ等身大のパネルがお出迎え。
今年はチャップリン生誕130年の記念の年だそうです。そして12月25日がチャップリンの命日であることから、この日はお芝居のあとにトークショーもありました。
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私がチャップリンの街の灯を見たのは、学生時代のリバイバル上映です。前知識なく見ましたが、ものすごく感銘を受けて、以来お気に入りの作品になりました。今もラストを思い出す度に涙ぐんでしまいます。
原作では、チャップリン演じるホームレスの男性が、盲目の花売り娘に恋をして、お金持ちの紳士のふりをして毎日彼女のもとに花を買いに訪れます。やがて彼女が最新の眼の治療が受けられるように、ボクシングの試合に出るなどして費用を工面しようとして...というストーリーです。
歌舞伎ではそのお話が、江戸を舞台に展開しますが、ボクシングが相撲になっていたり、車が籠になっていたり、なるほど~というアレンジでした。江戸時代にはお花屋さんはまだなかったそうですが、違和感なく、菊というのが日本的でよいなーと感心しました。
チャップリンならではのコミカルな場面もたくさんありました。特に幸四郎さんと、上総屋の旦那を演じる猿弥さんのの絡みには大笑いしました。そして、原作では号泣してしまうラストを、あえて駄洒落で締めくくって、感動しすぎないように?していたのに、幸四郎さんの思いを感じました。なんとなくフーテンの寅さんを思い出しました。
舞台のあとのトークショーも楽しかったです。幸四郎さんが考えた安さんのモノクロつぎはぎの衣装は、チャップリンと歌舞伎に対するリスペクトが表れていると感じました。
黒地に文字が書かれた布は、廓文章吉田屋の紙子の衣装からアイデアを取り入れたのだとか。ちょうど今年のお正月に、幸四郎さんの吉田屋を見たばかりだったので、大いに納得しました。舞台では文字の書かれた道具幕も登場しましたが、チャップリンのセリフがデザインされていたのも新鮮でした。
それからお花さんの手押し車は、シニアの方がスーパーに行く時に押しているショッピングカートから着想を得たそうです。おもしろいお話がいろいろとうかがえました。