アメリカ同時多発テロ事件の首謀者として捕らえられ、14年間アメリカ政府によってグアンタナモ収容所に収監されたモーリタニア人の青年と、彼を無実の罪から救った弁護士を描いた実話です。
モーリタニアン 黒塗りの記録 (The Mauritanian)
骨太の社会派ドラマが好きなので本作を見るのを楽しみにしていました。テーマとしては Amazon Studios 制作、アダム・ドライバー主演の「ザ・レポート」と同じく
アメリカ政府が同時多発テロ事件の計画に関わった犯人を捕えるために、イスラム系というだけで無実の人を拘束し、残酷極まりない方法で拷問して自白を強要していた、という事実を描いています。
「ザ・レポート」は膨大な報告書をまとめて事実を告発した調査員ダニエルの視点で描かれていましたが、本作は、モーリタニア人の青年スラヒ (タハール・ラヒム) が不当に拘束されているとして、人道的な立場から彼を守る弁護士ナンシーが主人公です。
ナンシーを演じるのはジョディ・フォスター。彼女をスクリーンで見たのは久しぶりでしたが、惚れ惚れするほどかっこよかった! 感情に惑わされることなく、自分が正しいと信じる道を静かに突き進むナンシーは、ジョディにぴったりの役どころでした。
ナンシーの助手テリーにシャイリーン・ウッドリー。優しく人懐こいテリーはスラヒにとって心の支えとなる存在でしたが、スラヒが罪を自白したと知ったテリーは、スラヒに裏切られた、自分は欺かれたのだと思い込み、ナンシーのもとを離れてしまいます。
その時にナンシーが言った、罪を犯したかどうかが問題なのではない、たとえ犯罪者であっても人道的に扱われるべきなのだ(たしかこんな意味)ということばが心に残りました。
一方、海兵隊検事としてスラヒを起訴する立場に置かれた、スチュワート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が登場します。彼は親友が副操縦士としてテロ機に乗務していて命を落としたことから、なんとしてもスラヒの罪を明らかにしようと調査を始めますが
どれほど調べてもスラヒが関わっていたという証拠がつかめず、やがて恐ろしい真相を知ることになるのでした...。
私がこの映画を見て最も心打たれたのは、これほどの理不尽な拘束と残酷な拷問を受けながら、終始穏やかで、まるで悟りを開いたかのように見えるスラヒの姿です。耐えきれずに自ら命を絶った人も決して少なくなかっただろうと思いますが
彼の強靭な精神をここまで支えてきたものは何だったのでしょう。信仰の力でしょうか。これほどの苦しみを味わされながら、それを赦すことができる心の大きさに感嘆せずにはいられませんでした。
また、このような国家ぐるみの犯罪が闇に葬られようとしている中、ナンシーやスチュワート中佐のような信念と良心をもつ人たちによってアメリカの民主主義が守られていることに、救いを覚えました。