セレンディピティ ダイアリー

映画とアートの感想、食のあれこれ、旅とおでかけ。お探しの記事は、上の検索窓か、カテゴリーの各INDEXをご利用ください。

三度目の殺人

2019年03月01日 | 映画

是枝裕和監督、福山雅治さん主演の、2017年公開の法廷サスペンス映画。役所広司さん、広瀬すずさんが共演しています。

三度目の殺人 (The Third Murder)

30年前に殺人を犯した前科のある三隅(役所広司)は、解雇された工場の社長を殺害して火をつけたとして起訴されます。三隅は犯行を自供していて、死刑はほぼ確実と思われましたが、弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は、なんとか無期懲役に持ち込もうと調査をはじめます...。

昨年TV放映していたのを遅まきながら録画で見ました。映画は、頬に血のついた三隅が、河川敷で何かを燃やしている場面から始まるので、犯人が最初からわかっているコロンボ形式の推理ドラマか?と思いましたが、そういうわけではないようです。

重盛は、三隅の30年前の事件を父親が担当していたという経緯から、先輩弁護士から頼まれ、三隅の弁護を引き受けます。弁護士というのは、どんな凶悪な犯人であっても、なるべく刑を軽くしようと手を尽くすのが仕事。エリート弁護士の重盛も、なんとか無期懲役に持ち込もうと奮闘します。

ところが三隅というのが、なかなかの曲者。すべてを重盛に明かすわけではなく、時に嘘もついているようです。達観して潔く刑を受け入れようとしているように見えますが、かといってほんとうに殺したかどうか疑わしい。困惑する重盛を、どこか高みの見物で楽しんでいる余裕すら感じられます。

はたして三隅はこの事件の真犯人なのでしょうか。

でもこの映画は、事件の真相を明らかにすることが目的ではないようです。まずはタイトルの意味するところですが、一度目の殺人は30年前に三隅が起こした事件、二度目の殺人は今回の殺人事件。そして三度目の殺人は三隅の死刑を指している、と私は受け止めました。

では誰が三隅を殺したのでしょう。私は最初は ”司法が三隅を殺した” つまりこの作品は司法の限界を描いた作品かと思いました。真実はひとつですが、弁護士の力量や、裁判長の判断で刑が左右されることに、疑問を唱えているのかな?と。

でも後で、三隅を殺したのは ”私たち” ではないかと思い当たりました。三隅は被害者の娘 咲江(広瀬すず)の犯行をかばっているのかもしれないし、あるいは咲江の代わりに殺したのかもしれません。いずれにしても、そのことが立証されれば、三隅の刑は軽くなるはずです。

でも弁護士だけでなく、公平を期するはずの検事も、咲江を法廷に呼ぼうとしませんでした。それは、真実を明らかにするよりも、咲江の未来を守ることを第一に考えたのだと思います。当の三隅が罪を受け入れようとしているのだから、それでいいではないか、という考えです。

私たちは時に、すべてを丸く収めるために、真実をほんの少し曲げることがあります。誰も傷つかず、みんなが納得するのであれば、それでよいではないかと。真実が必ずしも正しいとは限らないのだから...。

でもそれが、命に係わることだったら? たとえ三隅が納得していたとしても、冤罪によって死を受け入れることがあっていいのか。真相は藪の中ですが、割り切れないものを感じました。

【関連記事】ピーナッツクリームの朝食 @三度目の殺人 (2019-03-03)


コメント (6)    この記事についてブログを書く
« アアルト型で 北欧風シナモ... | トップ | ピーナッツクリームの朝食 ... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
忖度 (ノルウェーまだ~む)
2019-03-01 22:12:23
セレンさん☆
かなり重たいお話でしたよね。真相が明らかにされない事で、当時モヤモヤする人も多かった作品です。
私はそこが良かったです。その年のベストに入れました。
私は殺したのは福山君演じる弁護士と感じました。
彼は被告本人と証言台に呼ばなかった咲江を忖度し、希望する結末へ導いたから…
きっと法廷とは真相を明らかにする場ではなく、両者が納得するところに着地させる場なのだと感じました。
返信する
是枝監督 (ごみつ)
2019-03-01 22:58:23
こんばんは。

「万引き家族」はアカデミー外国語映画賞とれなくて残念でしたね。
キュアロンの「ローマ」が作品賞をとってればチャンスはあったと思うけど。

この映画もず~っと見たいと思っててまだ未見です。
記事を読ませていただくと、面白そうですね!
これとあわせて「そして父になる」も早く見なくては!!
返信する
☆ ノルウェーまだ~むさま ☆ (セレンディピティ)
2019-03-02 22:40:22
まだ~むさん、こんばんは。
見た後にいろいろ考えさせられ
語り合いたくなる、是枝監督らしい作品でしたね。
私も気に入りました。

あー! なるほど...
私はずいぶん内省的にとらえてしまいましたが
たしかに福山さん演じる重盛ともいえますね。
そうすると、三隅が言っていた空っぽの器?の意味も納得です。
おっしゃるように、こうすることがみんなにとって都合がいいんだ
という結果に導かれたように思います。重盛にも娘がいますしね...
三隅は覚悟はできていたとはいえ心中は複雑だったろうと思います。
返信する
☆ ごみつさま ☆ (セレンディピティ)
2019-03-02 22:48:58
ごみつさん、こんばんは。
万引き家族、残念でしたね。
でもフランスを舞台にした次回作も楽しみ!
期待しています。

本作と、そして父になる、どちらもよかったですよ。
どちらも答えがひとつではない、是枝監督らしい作品でした。
お時間のある時に是非☆
返信する
こちらにも… (ここなつ)
2019-03-15 12:45:01
こんにちは。こちらにもお邪魔します。
本作、お話の内容もすごかったのですが、やはりこちらも役者さんの演技合戦に心打たれました。
あとやっぱり、白い雪の中に存在するコントラストとして使われている色かな…。
結論は詳らかではないので、考えさせられることが多かったですよね。
映画としての良さがとても出ている作品だと思いました。
返信する
☆ ここなつさま ☆ (セレンディピティ)
2019-03-15 21:31:31
ここなつさん、こちらにもありがとうございます。
ここなつさんもご覧になったのですねー。
真実が明らかにされないので、役柄もとらえどころがないところがありましたが
そうした複雑なキャラクターを役者さんたちがうまく演じていましたね。
本作は、映像もすごくきれいだと思いました。
見た後もあれこれ考えさせられ、語り合いたくなる作品でした。
返信する

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事