8月25日付 産経新聞【正論】より
尖閣の地に勇気ある教科書改革 拓殖大学客員教授・藤岡信勝氏
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110825/edc11082503190001-n1.htm
沖縄県石垣市。エメラルドグリーンの美しい海に囲まれた日本最南端の観光・文化都市である。市は尖閣諸島を管轄しており、昨秋の中国「漁船」衝突事件で一躍、有名になった。その石垣市が今、教科書採択問題で揺れている。
≪「保守」市政の誕生が発端≫
4期16年も続いた「革新」市長が昨春の選挙で敗れ、「保守」市政が誕生したのがことの発端だった。中山義隆新市長は、現職の高校校長の玉津博克氏を教育長に任命し、その玉津教育長が教科書採択手続きの改革に手を着けた。
教科書の採択は教育委員会の権限だが、法律は複数教委にまたがる共同採択地区の設定を認めており、各教委の代表から成る「採択協議会」を設置し、そこで1種類の教科書を選ぶとされている。
沖縄県は6つの共同採択地区に分かれている。その一つ、八重山採択地区を構成する自治体は石垣市(4万9千人)、竹富町(4000人)、与那国町(1600人)の1市2町である。人口では石垣市が9割を占めているが、協議会委員は3つの自治体から同数の委員が選ばれる。悪平等である。
3市町を、首長の政治姿勢で色分けすると、石垣市と与那国町は保守、竹富町は革新である。石垣市の玉津教育長は、八重山地区採択協議会の会長でもある。玉津会長は、2つの改革を推進した。
第一は採択協議会の委員構成の変更。従来の委員は3市町の教育長(3人)、担当課長(3人)、事務局より担当職員(1人)、会長の属す事務局から補助職員(1人)、保護者代表(1人)の計9人だった。協議会の委員は、教科書採択について教育委員と同等の決定権を持つ。その委員に担当課長や担当職員、補助職員まで入れていたとは驚きを禁じ得ない。
≪委員構成変更と順位付け廃止≫
6月27日、八重山採択地区協議会は規約を改正して、委員を、3市町の教育長(3人)、3市町の教育委員(3人)、八重山地区PTA連合会代表(1人)、学識経験者(1人)の計8人とした。職員を外して教育委員を入れ、学識経験者を加えたのである。極めて常識的な改善であり、他県のどこにでも見られる構成となった。
第二は調査員(現場教師)による順位付けの廃止だ。平成2年の文部省通知は、「教職員の投票によって採択教科書が決定される等採択権者の責任が不明確になることのないよう、採択手続きの適正化を図る」よう求めている。にもかかわらず、八重山地区採択協議会の報告書の書式には「採択調査員」、「採択教科書名」、「採択理由」とあり、調査員は1社絞り込みの答申を出し、それ以外の教科書が採択される余地は全くなかった。文部省通知に反する事態が長年放置されていたのである。
こうした中で県教委の不当介入事件が起きる。8月3日、教育事務所を通じ、「協議会メンバーに校長・三市町教委指導主事を新たに追加すること」を求めてきた。教員出身委員の比率を高めて、保守系の教科書の採択を阻止するという狙いだった。左翼グループが宣伝してきた戦術を、公権力を使って実行に移したのである。
≪県教委の介入を全面的に拒否≫
採択協議会は、8月9日に3教育長から成る役員会、翌日には総会を開き、県教委の介入を全面的に拒否した。一連の会議で、最も原則的な主張を展開したのは与那国町の崎原用能教育長である。
崎原教育長は「現場の先生の言いなりで(協議会の)組織が形骸化、旧態依然としていた」と、従来の教科書選定プロセスを痛烈に批判し、「教育長も(教育委員会職員の)指導主事も委員に入った場合、2人の意見が別々では仕事ができない」と述べた。教育長と部下の職員が対等の資格で一票を投じる委員になるなど、行政組織の指揮命令系統の破壊である。こんなやり方が長年行われてきたことこそ糾弾されて然るべきだ。
8月22日、玉津教育長は記者会見し、平成17年に県教育庁義務教育課が出した通知の存在を明らかにした。それには「『一種絞り込み』を是正すること」と明記されていた。県教育庁義務教育課の狩俣智課長は産経新聞に対し、「1社絞り込み」について、「それも一つの決め方だ」と容認する認識を示していたが、文科省の通知とも過去に自らが発出した通知とも矛盾する観点から、恣意的指導を行っていたことになる(23日付産経新聞)。沖縄県教委の「指導」の問題点については国会でも質問があり、文科省が調査し国会に報告することになっている。
注目の八重山地区採択協議会は23日に、規約通り8人のメンバーで会議を開き、非公開、無記名投票によって教科書を採択した。この結果を承認する教育委員会は石垣、与那国で8月26日、竹富では29日に開かれる。このうち竹富町の慶田盛(けだもり)安三教育長は今回の採択に先立ち、保守系の教科書が選ばれても竹富町教委は承認しないと広言している。まだまだ波乱は続きそうだが、日本最南端の採択地区で行われた勇気ある改革は今後、沖縄の教育のあり方を大きく変える端緒になるかもしれない。(ふじおか のぶかつ)
尖閣の地に勇気ある教科書改革 拓殖大学客員教授・藤岡信勝氏
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110825/edc11082503190001-n1.htm
沖縄県石垣市。エメラルドグリーンの美しい海に囲まれた日本最南端の観光・文化都市である。市は尖閣諸島を管轄しており、昨秋の中国「漁船」衝突事件で一躍、有名になった。その石垣市が今、教科書採択問題で揺れている。
≪「保守」市政の誕生が発端≫
4期16年も続いた「革新」市長が昨春の選挙で敗れ、「保守」市政が誕生したのがことの発端だった。中山義隆新市長は、現職の高校校長の玉津博克氏を教育長に任命し、その玉津教育長が教科書採択手続きの改革に手を着けた。
教科書の採択は教育委員会の権限だが、法律は複数教委にまたがる共同採択地区の設定を認めており、各教委の代表から成る「採択協議会」を設置し、そこで1種類の教科書を選ぶとされている。
沖縄県は6つの共同採択地区に分かれている。その一つ、八重山採択地区を構成する自治体は石垣市(4万9千人)、竹富町(4000人)、与那国町(1600人)の1市2町である。人口では石垣市が9割を占めているが、協議会委員は3つの自治体から同数の委員が選ばれる。悪平等である。
3市町を、首長の政治姿勢で色分けすると、石垣市と与那国町は保守、竹富町は革新である。石垣市の玉津教育長は、八重山地区採択協議会の会長でもある。玉津会長は、2つの改革を推進した。
第一は採択協議会の委員構成の変更。従来の委員は3市町の教育長(3人)、担当課長(3人)、事務局より担当職員(1人)、会長の属す事務局から補助職員(1人)、保護者代表(1人)の計9人だった。協議会の委員は、教科書採択について教育委員と同等の決定権を持つ。その委員に担当課長や担当職員、補助職員まで入れていたとは驚きを禁じ得ない。
≪委員構成変更と順位付け廃止≫
6月27日、八重山採択地区協議会は規約を改正して、委員を、3市町の教育長(3人)、3市町の教育委員(3人)、八重山地区PTA連合会代表(1人)、学識経験者(1人)の計8人とした。職員を外して教育委員を入れ、学識経験者を加えたのである。極めて常識的な改善であり、他県のどこにでも見られる構成となった。
第二は調査員(現場教師)による順位付けの廃止だ。平成2年の文部省通知は、「教職員の投票によって採択教科書が決定される等採択権者の責任が不明確になることのないよう、採択手続きの適正化を図る」よう求めている。にもかかわらず、八重山地区採択協議会の報告書の書式には「採択調査員」、「採択教科書名」、「採択理由」とあり、調査員は1社絞り込みの答申を出し、それ以外の教科書が採択される余地は全くなかった。文部省通知に反する事態が長年放置されていたのである。
こうした中で県教委の不当介入事件が起きる。8月3日、教育事務所を通じ、「協議会メンバーに校長・三市町教委指導主事を新たに追加すること」を求めてきた。教員出身委員の比率を高めて、保守系の教科書の採択を阻止するという狙いだった。左翼グループが宣伝してきた戦術を、公権力を使って実行に移したのである。
≪県教委の介入を全面的に拒否≫
採択協議会は、8月9日に3教育長から成る役員会、翌日には総会を開き、県教委の介入を全面的に拒否した。一連の会議で、最も原則的な主張を展開したのは与那国町の崎原用能教育長である。
崎原教育長は「現場の先生の言いなりで(協議会の)組織が形骸化、旧態依然としていた」と、従来の教科書選定プロセスを痛烈に批判し、「教育長も(教育委員会職員の)指導主事も委員に入った場合、2人の意見が別々では仕事ができない」と述べた。教育長と部下の職員が対等の資格で一票を投じる委員になるなど、行政組織の指揮命令系統の破壊である。こんなやり方が長年行われてきたことこそ糾弾されて然るべきだ。
8月22日、玉津教育長は記者会見し、平成17年に県教育庁義務教育課が出した通知の存在を明らかにした。それには「『一種絞り込み』を是正すること」と明記されていた。県教育庁義務教育課の狩俣智課長は産経新聞に対し、「1社絞り込み」について、「それも一つの決め方だ」と容認する認識を示していたが、文科省の通知とも過去に自らが発出した通知とも矛盾する観点から、恣意的指導を行っていたことになる(23日付産経新聞)。沖縄県教委の「指導」の問題点については国会でも質問があり、文科省が調査し国会に報告することになっている。
注目の八重山地区採択協議会は23日に、規約通り8人のメンバーで会議を開き、非公開、無記名投票によって教科書を採択した。この結果を承認する教育委員会は石垣、与那国で8月26日、竹富では29日に開かれる。このうち竹富町の慶田盛(けだもり)安三教育長は今回の採択に先立ち、保守系の教科書が選ばれても竹富町教委は承認しないと広言している。まだまだ波乱は続きそうだが、日本最南端の採択地区で行われた勇気ある改革は今後、沖縄の教育のあり方を大きく変える端緒になるかもしれない。(ふじおか のぶかつ)