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日本国憲法は安保の適切な条文を欠いている 「放置」は国の安全揺るがす

2017-03-03 10:41:16 | 正論より
3月3日付    産経新聞【正論】より



日本国憲法は安保の適切な条文を欠いている 「放置」は国の安全揺るがす


駒沢大学名誉教授・西修氏


http://www.sankei.com/column/news/170303/clm1703030004-n1.html



 南スーダンの国連平和維持活動(PKO)へ派遣された陸上自衛隊が、昨年7月に作成した『日々報告』(日報)に、「戦闘」という文言が記載されていたことをめぐり、民進党など野党が政府を追及した。

 「戦闘」が行われているのであれば、PKO派遣の前提となる「紛争当事者間の停戦合意」が崩れているのではないかというのが、その言い分である。

 稲田朋美防衛相は、「一般的な用語では戦闘であるが、法的な意味では戦闘ではなく、武力衝突である」と説明した。




≪民進党のブーメラン現象が再現≫


 政府は従来、「戦闘行為とは、国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し、又は物を破壊する行為をいい、国際的な武力紛争とは、国家又は国家に準ずる組織との間において生ずる武力を用いた争いをいう」と定義づけ、それ以外を「武力衝突」であるとの答弁を繰り返してきた。いったい「国家に準ずる組織」とは具体的にどのような組織をいうのかなど、分かりにくさは否めない。

 昨年7月には、南スーダンの首都ジュバで、政府派と反政府派との間で戦車も出動する大規模な武力衝突が起こり、数百人の死傷者が出るという事態にまで発展した。その様子を見た自衛隊員が、素直に「戦闘」と記述したのだろう。


 実は、民主党内閣時代の平成24年春、隣国のスーダン軍が南スーダンを空爆し、また一部地域で地上戦が起き、市民や他国の国連PKOにも被害が発生した。

 このときの『報告』にも、「戦闘」と記されていたという(平成29年2月20日付産経新聞)。


 これに関して、自民党の佐藤正久参議院議員が2度にわたり、質問主意書を提出。民主党政府は、野田佳彦内閣総理大臣名で「事案が国連南スーダン共和国ミッションの活動地域以外で発生しており、規模も限定されていること」などをあげ、「総合的に勘案すると、国連ミッションの活動地域において武力紛争が発生しているとは考えない」との答弁書を示した(平成24年5月29日)。『報告』とは逆の結論を下したのである。何のことはない。いまや国会名物となった民進党のブーメラン現象が再現したということだ。




≪繰り返される「言い換え」の歴史≫


 私がここでこの案件を取り上げたのは、民進党を揶揄(やゆ)するためだけではない。一般的には「戦闘」と映る現象を、「戦闘」と書けない不思議さを指摘したいのである。

 稲田防衛相は述べている。「戦闘行為と書けば、憲法第9条に抵触しかねないので、武力衝突と言い換えるのだ」と。まさしく、このような「言い換え」「読み替え」の繰り返しが、憲法第9条関連解釈の歴史だったといえる。


 その典型が「戦力」に関する政府解釈である。政府は、自衛隊の前身たる警察予備隊や保安隊時代、「戦力とは、有効適切に近代戦争を遂行し得る程度の装備編成を備えるもの」と読み、また自衛隊が発足すると、「自衛のため必要最小限度を超える実力」と読み替え、いずれも「憲法の禁止する戦力には当たらない」との解釈を示してきた。


 私自身は、自衛のためであれば「戦力」の保持は禁じられていないという立場をとるが、ここでは立ち入らない。けれども、いまや最新兵器を具備し、世界的にも有数な実力集団である自衛隊は、一般的に「戦力」に該当すると見るのが常識というものであろう。

 先日、米国の新聞記者から、「どうして自衛隊が戦力でないのか」と問われ、説明するのにたいそう時間を費やさなければならなかった。




≪9条政府解釈の点検が必要だ≫


 政府がなぜ、第9条関連で「言い換え」「読み替え」を続けてこなければならなかったのか。それは、畢竟(ひっきょう)するに、日本国憲法が安全保障に関する適切な条文を欠いているからにほかならない。そして、このような憲法体制を放置してきたことに本源的な問題がある。


 政府の最大の責務は、国の平和と国民の安全を確保することにある。憲法に明確な規定がなければ、たとえ「言い換え」にせよ、その責務に応えなければならない。そのためには一般用語と多少異なっても、意味を整えなければならない。

 政府解釈の問題点を指摘することは大切だが、そのような解釈を余儀なくさせてきたのは国民自身であることも、自覚しなければならないのではなかろうか。


 間もなく日本国憲法が施行されて70周年を迎える。昨年9月には内閣法制局からA4判549ページに及ぶ過去から先ごろの集団的自衛権の解釈変更にいたるまでの膨大な答弁例集が公開された。このたび情報公開請求により、そのすべてが刊行(『内閣法制局「憲法関係答弁例集」(第9条・憲法解釈関係)』内外出版)されたが、第9条に関連する政府解釈を広く検証し、その整合性を点検する必要があるのではないだろうか。(駒沢大学名誉教授・西修 にしおさむ)










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