炎暑の影響か例年より開花が遅れていると感じましたが、秋の柔らかな木洩れ日をまとい、静かに紅の蕊を揺らす曼珠沙華がそこかしこに咲きはじめました。
なお、曼珠沙華には紅の花とともに、白い花も見られます。この白い花は白花曼珠沙華と言いますが、かつて鎌倉の萩寺、宝戒寺で見ることが出来ました。
この宝戒寺は北条一族終焉の地としても有名ですが、源氏一門の新田義貞に攻め込まれ、北条一族ことごとく自刃して果てた地でもあります。その後、萩をはじめ曼殊沙華、梅までが、ことごとく色を失くし、白色の花のみが咲くようになったと伺ったことがあります。
なお、曼殊沙華は、サンスクリット語で「赤い花」を意味するmanjusakaの音写で、この名前は、仏典に由来し、釈迦が法華経を説かれた際に、これを祝って天から降った花(四華)の一つが曼珠沙華であるとされています。鮮やかな赤色の花は、天上の花として仏教の象徴ともなったとの事です。
また、『万葉集』に詠われた「いちしの花」を彼岸花とする説もあります。
★路のべの壱師の花の灼然く人皆知りぬ我が恋妻は
(柿本人麻呂歌集)
しかし、曼殊沙華は、花が咲いた後に葉が出て、再び花が咲く頃にはその葉も消えるという特徴を持っています。このため、花と葉が同時に見られないことから、「相思華」とも呼ばれるようになったとのことです。それは、「花は葉を思い、葉は花を思う」という意味で、別れた恋人や亡き人を慕う深い思いを表しています。
曼殊沙華は、秋の彼岸の頃に咲くことから、彼岸花とも呼ばれますが、この名前も死者や故郷を偲ぶ気持ちを含んでいると考えます。曼殊沙華は、紅の花蕊を空に向け咲く美しい花ですが、その裏には悲しみや哀愁が隠されているようです。
この曼殊沙華に寄せて一首詠んでみました。
☆ほむら立つ如くに咲くや曼殊沙華 秘むる命の滾るがゆえか