昨年末に書いた記事「大規模講義においていかに『学び』を発生させるか」に、ひめさんから興味深いコメントをいただきました。大規模講義に、「ワールドカフェ」「オープンスペーステクノロジー」「AI」「アクションラーニング」などの技法が応用できるのではないか、との助言でした。お恥ずかしながら、これらの技法は、名前を聞いたことがある程度で、詳しく知らなかったので、少し調べてみました。
いずれも、企業研修や会議に用いられている共同学習の技法です。最近、企業研修や会議の質向上などに関連して、「学習する組織」という言葉をちらほら見聞きするようになりましたが、それに関する諸技法のようです。
ワールドカフェというのは、カフェ(喫茶店)のようなリラックスした雰囲気の中で、新しい知識や文化の創出・共有を行う話し合いの技法だそうです。リラックスした雰囲気で、協同的にポイントを押さえて話し合うことが、創造的なアイディアを生むことにつながる、という考え方を基盤としています。いくつかのグループをつくり、20~30分程度でメンバーを換えて話し合っていきます。
オープンスペーステクノロジー(OST)というのは、一定のテーマについての解決への情熱、責任感、奉仕精神をもとにして、自発的選択の原則のもとに異なる意見を衝突させ、民主的な共同体を作り出す技法だそうです。1時間半~2時間程度の話し合いを繰り返します。
アクションラーニング(AL)とは、集団による現実問題の解決策立案・実施過程において、諸活動と省察reflectionとを通じて、個人・集団の学習能力を養成する方法です。直接の関係はないようですが、デューイの教育・学習・探求理論との関係があるようです。
「AI」はわかりませんでした。何の略なんでしょうか?
いずれも、共同学習を深める上で確かに意義ある技法のようですね。有意義な議論ができているゼミや学会などでは、似たようなことを無意識に行っているように思います。ともかくも、意識的にそういう活動を作ることは大事なことですね。基本的に少人数による学習法ですが、数十人から1000人程度の集団にも適用できると考えられているようです。
さて、これらが大規模授業に応用できるとのことですが、演習型の授業技術として考えると、たしかに有意義だと思います。ただ、問題は、このような共同学習の前提として、参加者には、ある程度の専門的知識・経験を必要とすることです。社会人や現職の研修にはとても有効でしょうが、現場経験の浅い学生たちに適用するには、注意が必要です。
私も、自分の授業では、なるべく共同・体験学習を取り入れるようにしています(なかなかうまくいきませんが…)。こういう方法は、場合によっては、中身のない議論を続けさせてしまうことにもつながってしまいます。テーマ設定や授業展開などについて、細心の注意を払って計画する必要があります。
また、養成校では、学生たちの経験を超えた未知の知識・技術を身につけさせる必要もあります(学生たちが「わかる」ためには、あまりに学生の経験からかけ離れた内容を取り上げることはできませんが…)。このような内容を取り扱う場合、上記のような共同・体験学習だけではなかなか達成しがたいところがあります。どうしても講義部分が必要になると思います。どうも私が一番問題に感じているのは、この講義部分のようです。
さらに、教員養成校の学生とはいえ、中には意欲の低い者も少なくありません(大学の現実として、入学時に十分選抜できないため)。どのように意欲を高めるか、これも難問です。発達障害の疑いのある者や基礎能力の低い者もおり、社会性または応用力を強く要求する共同学習はかなりの負担になります。このような学生たちを、どのように学習に参加させるか、これも難問です。
結論がない上に、長くなりましたが、ひめさんのコメントのおかげで、思考を進める機会をいただきました。ありがとうございます。またご意見・ご感想などいただければ幸いです。