ようやく本を読む時間が少しとれました。
…と言ってしまうようになる状況がちょっとくやしいな。
さて、最近読み切ったのは、ジャレド・ダイアモンド(倉骨彰訳)『銃・病原菌・鉄』上巻、草思社文庫、草思社、2012年(初版2000年)です。
本書は、人類史上、特定地域の人々がなぜ優位に立てたのかという問いに取り組んだ名著です。やっと読んだのか、と言われそうなほど、高い評判を得ている本です。本当に面白かった。
上巻は、上の問いに対する理由を、特定民族の優秀さではなく、自然環境の違いから論じる部分を中心として構成されています。そういう書き方になっているのは、欧米中心の人類史に対するアンチテーゼのようです。各地域において、植物の栽培化や動物の家畜化の条件が異なることに注目し、数千年の単位で熱心に論じています。また、家畜化は食糧・燃料・繊維などの人間生活を豊かにするだけでなく、特定の病原菌を保有・流行させ、それに対する抵抗力を有する人々を生み出しました。その人々はのちに、他の地域へ移動した際、先住民を大量に病死させて優位に立ったことについて、わかりやすく丁寧に論じています。
本書は、人間とは何かについて考えることができます。人間も、定住生活をはじめて都市を作っていったとしても、やはり自然の一部であり、地理・動植物などと深くつながった自然系統の中で生きてきたのだなと思ました。上巻の言いたいことは、第4章「食糧生産と征服戦争」に凝縮されているように思います。 J・ダイアモンドはもともと生物学者(鳥類)なんだそうですが、生物学者が歴史を書くとこうなるのかと思いながら、とても面白く読みました。
本書から、教育学者は、何を学べるのでしょうか。人類史は、社会史よりも時間軸のとりかたが極めて長いのが、最大の特徴なのではないかと思います。教育社会史はすでにありますが、教育人類史なんてものはまだありませんし、おそらく叙述するのは難しいでしょう。人類史的に考えようとすると、近代的な「教育」概念では事実をとらえきれないでしょうから。
しかし、「人間は環境によって成長する」ということを人類数千年の歴史から考えることは、「教育とは何か」を考える上でも重要な論点になり得るような気がします。
下巻も近いうちに読みたいが、もう少し後になりそう。