教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

幼稚園・小学校教諭による保育士の代用について

2015年12月18日 20時13分15秒 | 教育研究メモ

 平成27年12月4日、厚生労働省保育士等確保対策検討会が「保育の担い手確保に向けた緊急的な取りまとめ」をまとめました。10日、厚生労働省のHPで公表されたので、本文はこちらで確認してください。
 これは、以前から問題になっている「保育士を幼稚園教諭・小学校教諭免許状所有者で代替する」という方針の最終版です。問題は、とりまとめの2の、一定の条件付きで保育士に代えて幼稚園教諭・小学校教諭・養護教諭を代用できるという方針です。無条件で保育士の代用ができるというような噂がちまたでは広がっていますが、いちおう条件がついたようです。幼稚園教諭は3~5歳児のみ、小学校教諭は5歳児のみ、養護教諭は現行の看護師等と同様の取り扱い(乳児対象)にするということです。たしかにやるとすればこうするしかないでしょう。また、恒常的な措置ではなく、緊急措置であるという但し書きがついています。これらは、省令などの改定によって実行される見込みです。

 さて、ここでは幼稚園・小学校教諭の件について限定して問題にしたいと思います。
 無期限・無条件の代用という最悪の事態が避けられたのは不幸中の幸いでした。しかし、まったく問題は解消していません。保育所で保育士が正規に保育できる立場にあるのは当然です。幼稚園・小学校教員は代替要員として保育所に入ります。そうすると、幼稚園・小学校教員は今の保育士より低い立場で職務にあたることになります。今の保育士より低い地位・待遇で、小免・幼免を活用できる立場にある人が保育現場に入ると、当局は本気で思っているのでしょうか。自発的にはありえないことです。保幼小の人事交流を意図しているのならわからなくもありませんが、それで今の保育士不足を解消できるほどの見込みがあるのでしょうか。
 3~5歳児に対する保育士の専門性を幼小の専門性と同一視することで、今後の保幼小(とくに幼保)の免許制度改革の伏線にしようとしているなら、大したものですが。(ただし0~2歳児に対する専門性が置き去りですがね)

 なお、本件の影響で保育者養成校の教員として気になるのは、学生の動揺です。保育士資格を取得するために必死で勉強しているのに、他の免許でもかまわないと言われては、自分たちのやっていることは何なの?と思うのも当然です。実際そう思っている者は1名や2名程度の小さいものではありません。今、保育士になる意欲を多くの学生が減退させれば、保育士のなり手がさらに減って大変なことになります。特に、こういう問題に敏感な学生は、様々な状況を見通す力を持つ優秀な学生であることが多いのです。そういう学生に余計な心配をさせないでもらいたいです。

 今、保育者養成校が増えていますが、新卒者を増やすことでは辞めていく保育士数を補充することしかできず、ベテラン保育士の数は増えず、保育士の専門性 は高まっていきません。経験年数3~5年でベテランと言われるようでは、いけないと思います。保育士の専門性が高まっていかないのは、乳幼児にとって不利 益ですし、その保護者だけでなく、国民・国家・社会にとっても不利益です。

 臨時措置は臨時措置ですから、時間をかせいでいる間に保育士不足を打開する有効な対策をうたなければなりません。
 保育士不足の有効な対策は、決まっています。保育士の待遇改善しかありません。待遇改善が行われることにより、保育者の資質を上げる強力な誘因になり、それが有効に働けば職場改善も徐々に進みます。断言します。

コメント (1)
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