前期はコロナ禍のために予定していたことがほとんどできませんでした。後期に使う私家版テキストを完成させたかったのですが、ほぼ進んでいない。材料が足りていないので研究もどんどん進めなければならないので、時間を見つけて研究にいそしんできました。今は、日本の教育が将来を見据えて今どんな課題をかかえているか、政策上まだ強調されていないことも含めて考えています。
さて、いろいろ本を読む中で、未来が現在の延長線上にあるとすれば、現在を形作ってきた経緯を探り、現在の問題を研究する、現代教育史の重要性をますます実感しています。
本田由紀『教育は何を評価してきたか』岩波新書、2020年を読んだときに感じたことを少し。本書は、教育社会学者の著らしく、社会的な情勢を情勢を踏まえて、「能力」「資質」「態度」などの評価にかかわる言葉を中心に戦前から現在までの日本教育史を描いています。統計はもちろん、代表的な法令・文書や論調、そして実証的な先行研究の成果によって、日本社会の「垂直的序列化」「水平的画一化」というご本人の理論を証明しようとしています。とても面白く読ませていただきました。例えば、新学習指導要領の「資質・能力」について、公的な見解とは違った視点から考えることができました。本書からは、たくさんの刺激を受けました。それと同時に、教育史研究の立場からもっと頑張らないといけないなと思いました。新書なので難しい史料操作を避けたのかもしれませんが、はたしてこれだけの史料でここまで言っていいのか、本書の主張には教育史研究者としては疑問が残ります。今のところ結論に本質的な異論をもっているわけではないのですが、我々の経験上、政策形成過程や様々な言説の研究をもっと詳しく進めて深めていけば、もっとリアルに戦後教育の問題や1990年代以降の現代的課題を認識できる可能性があるのではないかと思いました。理論や統計に沿って歴史を把握しようとする社会科学と、詳し事実・経緯や人間の思想・心情に沿って歴史を把握しようとする人文学とのアプローチの違いといえばよいでしょうか。教育社会学と教育史、もしくは社会科学と人文学の違いかもしれませんが、理論を「実証」する研究姿勢の違いのようなものを感じます。
いずれにしても、本書の歴史認識と理論は興味深いものです。教育史の分野で鍛えられてきた方法でさらに研究すれば、もっと面白くなるだろうと思いました。社会科学と人文学、教育社会学と教育史。現代教育史の研究は教育社会学の方が教育史よりも先を進んでいると思います。両者の研究を相補的に進めていくことが、現代をより明確に認識し、現在をより豊かに生き、未来をより明確に見通すことにつながるのではないか。教育史の分野では「〇〇年代までが教育史の範囲」などと言うことがありますが、そういう自己規定はあんがい不毛なのかもしれないと思います。
本田著、とても読みやすく、とても面白いので読んでみてください。
さて、いろいろ本を読む中で、未来が現在の延長線上にあるとすれば、現在を形作ってきた経緯を探り、現在の問題を研究する、現代教育史の重要性をますます実感しています。
本田由紀『教育は何を評価してきたか』岩波新書、2020年を読んだときに感じたことを少し。本書は、教育社会学者の著らしく、社会的な情勢を情勢を踏まえて、「能力」「資質」「態度」などの評価にかかわる言葉を中心に戦前から現在までの日本教育史を描いています。統計はもちろん、代表的な法令・文書や論調、そして実証的な先行研究の成果によって、日本社会の「垂直的序列化」「水平的画一化」というご本人の理論を証明しようとしています。とても面白く読ませていただきました。例えば、新学習指導要領の「資質・能力」について、公的な見解とは違った視点から考えることができました。本書からは、たくさんの刺激を受けました。それと同時に、教育史研究の立場からもっと頑張らないといけないなと思いました。新書なので難しい史料操作を避けたのかもしれませんが、はたしてこれだけの史料でここまで言っていいのか、本書の主張には教育史研究者としては疑問が残ります。今のところ結論に本質的な異論をもっているわけではないのですが、我々の経験上、政策形成過程や様々な言説の研究をもっと詳しく進めて深めていけば、もっとリアルに戦後教育の問題や1990年代以降の現代的課題を認識できる可能性があるのではないかと思いました。理論や統計に沿って歴史を把握しようとする社会科学と、詳し事実・経緯や人間の思想・心情に沿って歴史を把握しようとする人文学とのアプローチの違いといえばよいでしょうか。教育社会学と教育史、もしくは社会科学と人文学の違いかもしれませんが、理論を「実証」する研究姿勢の違いのようなものを感じます。
いずれにしても、本書の歴史認識と理論は興味深いものです。教育史の分野で鍛えられてきた方法でさらに研究すれば、もっと面白くなるだろうと思いました。社会科学と人文学、教育社会学と教育史。現代教育史の研究は教育社会学の方が教育史よりも先を進んでいると思います。両者の研究を相補的に進めていくことが、現代をより明確に認識し、現在をより豊かに生き、未来をより明確に見通すことにつながるのではないか。教育史の分野では「〇〇年代までが教育史の範囲」などと言うことがありますが、そういう自己規定はあんがい不毛なのかもしれないと思います。
本田著、とても読みやすく、とても面白いので読んでみてください。