教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

職業教育としての「大学における教員養成」

2021年03月12日 19時55分00秒 | 教育研究メモ
 教員養成は、他の職業のものと比べて特殊な原理を多く含むが、一つの職業教育である。職業教育は現実・現在の職業の秩序に向けて準備するだけでは、職業や使用者の論理に従属する受け身の人材を養成することになる。社会のあり方や制度の大きく変わろうとしている現代において、このような職業教育しかもたない職業は持続不可能である。職業の現実についての確かな認識をもち、職業の現実に向き合って、その改善・向上に協力して行動できるような人材を養成することが、今の職業教育の求められる姿勢であろう。
 そうだとすれば、教員養成は、教員の現実についての確かな認識をもち、教員の現実に向き合って、その改善・向上に協力して行動できるような人材を養成することである。これを実現するには、教員養成の現場は、教員の現実である教育現場とつながりながら、一定の距離をとった位置にある必要がある。教員養成が現場の徒弟制ではなく大学において行われることの意義はここにあるし、教員養成が「実習と講義・演習」の往還や、「実務家教員と研究者教員」または「教科教育学者と教育学者、親学問の学者」の協同によって行われることの意義もここにある。教員の仕事には、教育現場でしか学べないことと、教育現場では学べないことがある。現場から距離をとって体系的・研究的に学問することによってはじめて学べることがあり、教員の現実に向き合ってその改善をはかるには、そのような学びを欠かすことはできない。そのような学びが欠けたまま現場に出れば、既存のあり方に順応するしかない。
 もちろん、学問のみでは職業教育にはならない。新しく養成された新卒者が教員の現実を改善していくには、教員の仕事に関する基本的な知識・技能を身につけておく必要がある。基本的な仕事ができない者は、既存の職場のあり方に順応するか、順応すらできずに職場を去るしかないからである。教員養成は、教員の基本的な仕事に関する知識・技能を身につけながら、同時に教員の現実に飲み込まれずに自立して現実に向き合えるような能力と態度を身につけていく必要がある。教員養成は、そういう意味で、職業訓練と学問の往還の課程でなければならないし、実習と大学の往還の仕組みを充実させる必要がある。
 教員養成の現場は、教育現場と一体化しては己の役割を全うすることができない。既存の教員の仕事を学びつつ、教員の現実に協同してしっかりと向き合える力と態度を身につける独自の立場を確立した上で、教育現場と連携・往還する経路を確保することが必要である。そうすることで、学問の場である大学で教員養成(職業教育)を行う「大学における教員養成」が成立する。
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