「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。」
あまりにも有名な川端康成の雪国。
思想的には同調できないところもあるのですが、この文体が好きなのです。
冬、やっぱり北国、雪国に行ってみたくなるのです。
この地も決して温暖な地ではないのですが、それでも行ってみたくなるのです。
青春十八切符は甲州街道歩きで、5枚つづりのうち、四枚を使いました。あと一枚残っているのです。
北へ向かう飯山線で、越後湯沢に行こうと思いました。駒子の湯に行って雪国の情緒に浸ろうと思ったのです。
調べてみると、その日、駒子の湯は定休日だと判りました。
終着の越後川口の温泉で魚野川と信濃川の合流点を見下ろしながらのんびりする案も浮かびました。
飯山線は過疎地の赤字路線で、越後川口までの直通はわずかしかありません。乗り継ぎで長時間またなければなりません。
それならば、途中の、ターミナル駅、十日町にしよう、と消去法で決めました。
朝、六時過ぎの飯山線に立ヶ花駅から乗り、飯山、歴代最高の積雪量を誇る森宮野原、越後の津南を経て、八時過ぎに十日町に着きました。
雪は日陰に少し残っているだけでした。まるで、春のようでした。
温暖化、温暖化と繰り返すのも言い過ぎて少々気が咎めるのですが、ここまで雪が少ないと、もう後戻りできないボーダーラインを越えてしまったのではないかと心配になります。
一月に、この雪国で雪がないなんて、確かに異常です。
信濃川を東と西に街があります。
十日町の駅は東側にあります。こちらがもともとの十日町です。
信濃川の西側には川西町があります。合併して十日町になったようです。
川西にはまだ行ったことがないので、行くことにしました。
駅のすぐそばから、彫刻の道があります。遊歩道で、所々に石の彫刻があります。
二キロくらい歩くと信濃川に出ました。
河原にも雪はありません。雪ではなく雨も降り始めました。
川を渡り、少し行ったところに小さなお堂がありました。雪囲いもしてあり、雨宿りには願ってもない場所です。
お参りをして、持参した本を読んで過ごすことにしました。
題名は『ソロモンの偽証』(宮部みゆき)、三部作です。
図書館から借りてきたのです。
まず、丹念にキャラクターを作り上げた。そして場所を設定した。そして、シュミレーションのボタンを押した。
まさに、そんな風に生み出された物語。
そんな印象を受けました。登場人物は中学三年生という設定ですが、そんな中学生いるわけない。細かな心理描写、どんな時でもゆるぎないキャラクターの性格と特質。
レーモン・ラディゲというフランスの作家をなぜか思い浮かべました。ジャンルはサスペンスなのですが、これはもう純文学だと思いました。
そんな風にして一時間ほど過ごしました。
千手温泉、千年の湯が目的地です。
とても珍しい湯の色でした。薄いコーヒーの色なのです。露天風呂にはぬる湯とあつ湯があり、交互に入りました。仮眠室もあり、寝具も置いてありました。信州の温泉では見たことのない施設です。
昼食はこの地方の名物、へぎ蕎麦です。
繋ぎに海藻を使った珍しい蕎麦です。公式の見解では、かなりおいしかった、です。
以下は内心の声です。
『このつゆはうまみがあって、甘さと辛さのバランスがいい。蕎麦ののど越しも悪くない。五段階評価の四といったところかな。ただ、これは旨い!と思わず声を上げるほどの感動は、ない。』
川西地区の温泉と蕎麦を堪能したのち、今度は東側の明石の湯に向かいました。
この湯は何度か利用したことがあります。休憩所も広くて、食事処もあります。
駅にも近いので、列車の時間待ちに便利です。ここで午後の時間を済ませ、ソロモンの偽証を脇目もふらず読みふけりました。
夕方五時半過ぎに十日町から出発しました。あたりは少し夕闇がおり始めていましたが、まだ十分に明るくて、ここにきてずいぶん日脚が長くなったなあと思いました。
夕闇の駅のホームに面白いものがありましたので撮ってみました。特に意味はありません。
このようにして、雪国への旅は終わりました。
ソロモンの偽証三部作は読み終えて、図書館に返し、また三冊借りてきました。
小説だけだと重すぎるので、ジャンルの違うものにしました。
明日は雨の予報。雪ではないのですね。どうなっているのでしょう。
ともかくも、晴耕雨読の、読の日になりそうです。
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