社会保険料でも優遇されているお金持ち。
元大蔵官僚の経済ジャーナリスト武田知弘氏の「週刊金曜日」誌上での連載も9回目をむかえた。
今回のタイトルは「金持ちの社会保険料負担率アップ」を。
最高税率が小泉・竹中コンビの「構造改革」で下げられたことを問題にしない民主党政権、経済評論家や経済学者及びメディアであるが、社会保険料の負担率でもお金持ちは「応能負担」をしていない。
今、将来の年金はどうなるのかと大問題になっていて、だから「消費税」という話に持っていかれそうになっているのだが、ここにも「落とし穴」があった。
現在の社会保険料は原則として収入に一律に課せられている。たとえば厚生年金の場合は約8パーセントである。
そして社会保険料の対象となる収入には上限があって、厚生年金の場合は月62万円。つまり62万円以上の収入がある人はいくら収入があっても62万円の人と同じ額の社会保険料しか払わなくていいのだ。
毎月620万円もらっている人の保険料は0・8パーセントになる理屈だ。普通の人の10分の1である。
社会保険料の掛け金があまり多くなると見返りの方が少なくなるという理由でこんなことになっているのだが、そもそも社会保険料というものは国民全体の生活を保障するために各人が応分の負担をするという性質のもであるから、人によって掛け金よりももらえる額が少なくなっても仕方の無いもの、当たり前というふうに考えなければならない。
掛け金に応じて見返りがあるのなら、それはいわゆる民間の年金保険とかそういうものになる。
現在の年金問題で真っ先にやらなくてはいけないのは金持ちの社会保険料の負担率を他の人と同じ率に引き上げること。そうすれば年金の財源はすぐにまかなえる。
国税庁の08年の民間給与実態調査によると、会社員で年金保険料の上限を超える年収800万以上の人が12・2パーセントもいる。これらの人が他の人と同率で年金保険料を払うなら概算でも5兆から10兆円程度の上乗せとなる。
現在年金保険料収入は25兆円前後なので一挙に2割から4割増しになる。
これに自営業者や配当所得者、不動産所得者の社会保険料を上乗せすれば10兆を超える財源が確保でき、年金問題の財源問題が解決する。
武田氏は言う。「社会の恩恵を最も受けているのは金持ちである。彼らは日本の社会が安定し、順調に経済運営が行われているからこそ金持ちになれたのだ。だから社会保障に対して相応の負担をしなければならないのは当たり前のことである」。
武田氏は大蔵省でも税務関係部署にいたようで、その経験から「金持ちは税金に非常に渋い」ということを強く感じたという。
これは一般的にも「金持ちほどケチだ」とはよく言われている。それをイメージではなく、実務で体験してきたということだ。
金持ちは「税金は無駄な支出」と思っており、税金だけは絶対に払うまいとしているように見えるという。「税金には費用対効果がない」と思っていて、その典型が財界だ。
自分達の言うことを聞いてくれる政党や政治家には多額の寄付をするが、法人税は下げろと迫る。
「貧乏人から1万円の税金を取るより金持ちから1円の税金を取る方がむつかしい」のだそうだ。
それだけよく税金に関して研究していて、今のところ「消費税は公平な税だ」と人々に思わせることに成功している。
「金持ちや大企業は放っておいたら限りなく増長する」だから規制をかけなれればならないのだ。それが政治の仕事である。