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映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

珈琲時光

2004-11-03 21:25:29 | 映評 2003~2005
小津生誕100周年記念作品。監督が候孝賢(ホウ・シャオシェン)だ。
別に小津映画のコピーを目指したわけではなく、いつものホウ・シャオシェン映画であった。それはそれでいい。
「悲城情市」を撮って「戯夢人生」を撮って、自分の目指す世界を完璧に極めてしまったホウ・シャオシェンのその後の作品は観ていて痛々しくなるほどにもがき苦しみながら新たなスタイルを模索しているようだった。興行的にはもちろん批評的にもズタボロ。それでも個人的には「フラワーズ・オブ・上海」も「ミレニアム・マンボ」も好きで好きでたまらないのだけど。
今回もホウ・シャオシェンの自分探しの苦難である。小津うんぬんというより、日本で日本語の映画を撮ることで新たで且つ無謀な挑戦をしているようだ。
で、この映画だが観終わった直後は「はぁ???」とまるきし理解不能な物語であった。別にストーリーが難解とか構成が複雑とかいうんでなく、物語としては「なんも起こらない」。一体何がしたかったの???と2~3日頭を抱えた。
だが、日が経つにつれて、じわじわとこの映画が自分の中で大きいものになっていった。
家族も恋愛も仕事もドラマチックなことなんか普通は起こらない。極めてたんたんと日常的なスケッチを繰り返していきながら、抱えている問題は、妊娠でありシングルマザー希望であり、大きな問題なのだ。
ひたすらに家族のあり方を見つめた小津の場合、結婚も妊娠も一大事件であったが、ホウ・シャオシェンの描く現代の東京ではそれが大した事件にはならない。そんなことよりなんとなく気の合う人と何をするでもなく一緒にいることの方が大事なのである。家族を中心とした社会の崩壊が、一見何事もないこの静かな映画から、切実に訴えかけられている。…とは言っても、これくらい何も語らない映画だと受ける印象も十人十色だろう。

この映画を芸術たらしめているのは、リー・ピンビンのカメラではないだろうか。ほんとに美しい。この人、台湾でも香港でもベトナムでも美しい映像を撮り、亜熱帯な空気の中で実力を発揮するのかと思っていたが、東京で撮ってもやっぱり美しい。「ミレニアム・マンボ」でだって東京と夕張で撮ってたわけだけど、今作の方がずっとずっと美しい。
パンフで読んで感動した話。
スタッフの一人がカメラを落っことしてファインダーをぶっこわしてしまった。リー・ピンビンは「しょうがねえなあ」と言ってファインダーをのぞかずに撮影を続行。撮れた映像は完璧。方・シャオシェンもリー・ピンビンもその他スタッフは誰一人としてカメラを壊した者を叱らなかった・・・

心配された俳優陣であるが、これが意外なことに一青窈は素晴らしい存在感を見せて映画の成功の一翼を担っている。
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