クラシック音楽好きのインディーズ映画監督の齋藤新です。
今回は映画音楽の巨匠が手がけたシュワルツェネッガー映画を出発点に、プロコフィエフやソ連のクラシック音楽を巡るミステリアスなお話を紹介します。(ややオーバーなイントロダクションなので、読んで怒らないでくださいな(笑))
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皆さんジェームズ・ホーナーという作曲家を知っているでしょうか?
アメリカの映画音楽の作曲家で、代表作「タイタニック」でアカデミー賞の作曲賞および主題歌賞を受賞しています。
私が映画音楽を好きになったきっかけはジェームズ・ホーナーでした。
中学のころテレビの洋画劇場で観た「スタートレック2」の音楽に心からしびれて、生まれて初めて外国映画のサントラを買いました。当時はCDでなくLPレコードでした。
ジョン・ウィリアムズやジェリー・ゴールドスミスやエンニオ・モリコーネよりも先に私が心を打たれたのはジェームズ・ホーナーだったのです。
以来私が色々かかっている映画の中からどれを選ぶか?という判断基準の一つが「音楽がホーナーであること」でした。のちにウィリアムズやデイブ・グルーシンもそこに加わりますが。
私は「タイタニック」は彼の代表作ではあっても最高傑作とは思ってません。とは言え少年の頃から好きだった作曲家がアカデミー賞を取るのを観た時は感慨深いものがありました。
しかしなんと悲しいことか、ホーナーは2015年に自ら操縦する自家用飛行機の墜落で亡くなってしまいました。悲しみにくれてしばらくホーナーばかり聴いてました。
そんなホーナー好きの私は彼の悪いところもよく知ってます。
自作品の流用や、他人の作品の引用が多い…という点です。いや、そうした欠点も含めて彼の作品を愛し続けてきたのですが。
ここでは、ホーナーの自作品流用の話は映画音楽マニアすぎるので、他人の作品、主にクラシック音楽からの引用について書きます。
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クラシック音楽というのはいい意味で新陳代謝の悪いジャンルで、いまだにフルトヴェングラーの戦前のアルバムが買えたりするわけですが、サントラというやつは違います。
油断するとすぐ廃盤になり、もともと数がはけてないから中古でもそうそう見つからないのです。
あの時買っとけばよかった…と後悔しているサントラがいくつかあるのですが、その一つが「レッドブル」です。
念のため説明するとシュワルツェネッガーがソ連の刑事に扮し、逃亡犯を追ってシカゴにやって来る…というまあ、主人公がソ連なだけで内容的にはアメリカ映画でよく見る刑事アクションです。でもシュワルツェネッガーとジェームズ・ベルーシの米ソカルチャーギャップコントのようなセリフは面白かったですね。
ベルーシ「44マグナム、世界最強の銃だ」
シュワ「世界最強はソ連のポドビリン9.2mmだ」
ベルーシ「何言ってんだ?世界最強はこれだよ。ダーティーハリーだって使ってる」
シュワ「ダーティーハリーって誰だ?」
音楽はジェームズ・ホーナーでした。
彼の個性がよく出ている映画でした。無駄になりまくる尺八、ホーナー好きならお馴染みのメロディ、シンセとオケの融合…スコアはどれも素晴らしかったのですが、聴いてて一番テンション上がるのは、オープニングタイトルバックと、ソ連の警察の制服を身にまとったシュワルツェネッガーがカタブツロシア人っぽいむっつり顔で敬礼するカットから始まるエンドロールにかかる、コーラスと金属的なガンガンいうパーカッションが印象的なメインテーマでした。
といってもこのメインテーマは、プロコフィエフの「10月革命20周年のカンタータ」の一曲をアレンジしたものです。
これは映画音楽の本とか、シュワルツェネッガーの特集本とかにも書いてある、割と公然の引用です。
ホーナーが亡くなってからしばらく、私はまだ買ってなかったホーナーのサントラを色々探していました。
なかでも「レッドブル」欲しい!!と思って探していたのですが、公開から30年近くたち「レッドブル」のサントラは探せども探せども見つかりません。タワレコ渋谷など店頭はもちろん、iTunesなどオンラインでも見つかりません(カバー版の安っちい演奏なら見つけましたが)
せめてメインテーマの引用元でも聴こうかと、2019年のある日、私はプロコフィエフのそのカンタータのアルバムを求めてタワレコに行ったのですが…
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プロコフィエフとは言え、あまり人気のない曲なのか(今時ロシア革命を讃える曲とか流行らないのは仕方ないですが)、あの品数のタワレコ新宿と渋谷の両方を探して見つかったのは、写真のアルバムだけでした。
ウクライナのキリル・クラビツという指揮者(し、知らない…)のドイツのオケによる演奏です(シュターツカペレ・ワイマール)。録音は2017年とかなり新しいものです。
とりあえず買って聞いてみるわけですが、これがなかなか良いアルバムでした。
お目当ての「レッドブルのテーマ」は2曲目にしっかりと。
歌詞の内容は知れてますが意味はともかく重厚なコーラスは聴いててなんだか熱くなってきます。(レッドブルのオープニングの方が燃えますけど、あっちはだいぶアレンジされてますから)
他の曲も、マシンガンの連射音が鳴りまくったり(チャイコがキャノンなら俺はマシンガンだ!みたいな?!)、演奏中に指揮者自らが拡声器でレーニンの演説を叫ぶ椎名林檎風演出とか、ヤケクソ気味なプロパガンダ炸裂の楽曲の数々がイデオロギーを越えて無駄に胸熱な素晴らしい作品です。
重厚なオケとコーラスが渾然一体となって、ある種の熱狂の空間をきちんと作っていました。
(クラビツはイデオロギーは置いといて純粋に音楽として取り組んだそうですが)
10月革命20周年ということは1937年の作品でしょうか。
革命後西側で活動していたプロコフィエフがソビエトに帰国?したのが1936年のこと。引っ越し挨拶代わりの作品だったのかも知れませんね。
この時期はスターリンの独裁体制のころで、2年後には第二次大戦が始まるし、キナくさい時期らしい作品といえばそんな感じもします。
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ところでこのカンタータを聴いていますと、思わぬところで、別のホーナーに出会いました。
ホーナーが音楽を担当した映画「ウィロー」(ロン・ハワード監督、ジョージ・ルーカス製作総指揮の80年代のファンタジー映画)で、悪の女王バブモルダのテーマとして使われていたメロディが、プロコフィエフの革命のカンタータのあちこちで聴こえるのです。
さては!ホーナーめ!ウィローでもこっからパクりやがったな!!と思ったわけです。
まあ、もしかするとホーナーは悪の魔女バブモルダに、ロシアの怪僧ラスプーチン的なものを感じたのかも知れません。
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話は変わりますが以前「2001年宇宙の旅」の紹介で、その作品で使われるハチャトリアンのアダージョも良いですよね!って話をしましたが、ホーナーが音楽を担当した「エイリアン2」でもオープニングで、そのハチャトリアンのアダージョと良く似た曲がかかります。
Wikipediaによると音楽の制作期間が短ったからと書いてますが、ホーナーの引用癖をよく知る私は違うと思ってます。彼は時間があっても使ったにちがいないのです。
しかもそのエイリアン2で使ったハチャトリアンのアダージョっぽい曲を、さらにちょっとアレンジしてやはりホーナーが音楽担当の「今そこにある危機」でも使っています。自分の曲と勘違いしてる疑惑…
さらに、ホーナーが音楽を担当したギリシャ神話時代の歴史大作「トロイ」でブラッド・ピット演じるアキレスのテーマが…ショスタコーヴィチの交響曲5番の4楽章にちょっと似てるところがありまして
もっともショスタコだってマーラーやワーグナーを引用しているので良いじゃないかと思うかもしれませんが
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と、ここまで書いてて気づいたのですが、プロコ、ハチャト、ショスタってみんなロシア…って言うかソ連の作曲家ですね。
ホーナーのこのソ連音楽愛って何なんでしょ!?
でもま、調べてみるとシューマンやバーンスタインやニーノ・ロータとの類似も指摘されてるみたいで、なにもソ連エコ贔屓って事もないようです。
そういえば「スニーカーズ」の音楽もちょっとベト9に似てるんですよ。
いや、いいんですよ、引用が多くたって
ホーナーの映像と音楽をシンクロさせる職人ぶりはウィリアムズやゴールドスミスにまったく引けを取らないというか、なんなら世界一だったと思ってますから!
ホーナーが亡くなった時、ジェームズ・キャメロン監督と「アバター2」の音楽の話を始めていた頃だったとのこと。「アバター2」でホーナーの音楽を聴くことは叶わなくなりましたが、私はホーナーの楽曲をこれからも楽しむでしょうし、買ってないサントラを見つけたら買って、またなんかの曲の引用を見つけてはニヤリとすることでしょう
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【余談】
私の選ぶ「ジェームズ・ホーナーの音楽がしびれるこの10作品!!」
1.スニーカーズ
2.スタートレック2 カーンの逆襲
3.エイリアン2
4.ウィロー
5.コクーン
6.ボビー・フィッシャーを探して
7.アバター
8.ロケッティア
9.今そこにある危機
10.ゴーリキーパーク
●補足解説
「スニーカーズ」
フィル・アルデン・ロビンソン監督、ロバート・レッドフォード主演の産業スパイアクションみたいな変な映画。ブランフォード・マルサリスをサックスソロにフィーチャーしてホーナー音楽がオシャレで軽快に鳴り響くメインテーマは絶品。第九に似たメロディは盲目のコンピュータ技師が車を爆走させるシーンにかかり、爽快感が素晴らしい。
ホーナーとロビンソン監督と言えば「フィールド・オブ・ドリームス」も傑作です。
「コクーン」
ロン・ハワード監督の宇宙人と爺さんたちの友情物語。スタートレックの延長的なスコアと、どこか「星に願いを」っぽいテーマ、そこにジャズ風の爺さんたちのテーマ、さらにロンハワード好みのロックサウンドまで混ざったおもちゃ箱ひっくり返した系の遊び心満載アルバム。ホーナーともっとも相性良かった監督がロン・ハワードだと思ってます。「アポロ13」も「ビューティフルマインド」も素晴らしい。
「ボビー・フィッシャーを探して」
「シンドラーのリスト」の脚本家で知られるスティーブン・ザイリアンの初監督作で伝説的チェス名人ボビー・フィッシャーの再来と言われたチェスの天才少年の成長物語。優しさを描いた映画に傑作の多いホーナーの優しさ系ベスト作品
「ロケッティア」
ジョー・ジョンストン監督によるヒーロー映画。ホーナーの長いキャリアを見渡すとどうも敬遠していたのではないかと思える2つのジャンルがあって、それが「ヒーロー」と「コメディ」。そんな彼の苦手ジャンルを次々と依頼していたのがジョンストン監督。「ミクロキッズ」「ジュマンジ」などのコメディと、そしてヒーロー映画の「ロケッティア」。
実はホーナーにとってジェームズ・キャメロンやロン・ハワード以上に魅力を引き出してくれたのがジョンストンではないか?
といっても「ロケッティア」は第二次大戦前の少し古きアメリカが舞台で「ノスタルジー」と「牧歌的雰囲気」というホーナー得意要素も強い作品でもあり、ホーナーの持ち味が発揮された快心のスコアとなっている
「今そこにある危機」
「フィールドオブドリームス」「タイタニック」等の成功で「泣かせのホーナー」の異名を持つようになったホーナー。たしかにホーナーの泣かせテクは一流で否定する気はないがしかし…
ホーナー音楽の真髄は映像の変化と完璧にシンクロした「映画を体感できる音楽」にあり、つまりはカットが目まぐるしく変わるアクション映画こそホーナーの真骨頂が楽しめるのである。彼の本当の二つ名は「激闘のホーナー」ではないか!ベイジル・ポールドゥリス先輩やジェリー・ゴールドスミス先輩を差し置いてそんなの名乗れないよと思ってるかもしれないが、その二大アクション巨匠にも匹敵する激アツ作曲家でもあると思ってます。
そんなアクションホーナー最高作が「今そこにある危機」だ。これを聞いて戦え!走れ!打ちのめせ!やっつけろ!
「ゴーリキー・パーク」
1983年のマイケル・アプテッド監督作品。
モスクワを舞台にしたモスクワ市警の刑事を主人公にした犯罪映画。主演はウィリアム・ハートで台詞は英語で、80年代のこの時期モスクワでロケできたはずもなく、ヘルシンキなどでロケしたという、とっても風変わりな映画。
メロディラインに後の「コマンドー」や「レッドブル」や「今そこにある危機」でも聴こえるものの雛形が見て取れてホーナー好きには興味深い(いやこの作品より前の「48時間」ですでに聞くこともできるのですが)。一方で、若い頃のホーナーによく見られるパーカッションやブラスでグイグイ盛り上げる追跡シーンの音楽などかなり手に汗握る。
勝手に「ゴーリキーパーク」「レッドブル」「スターリングラード」の3作を「ホーナーのソ連3部作」と呼んでます。
ホーナーは他にも
戦争大河ドラマ風映画の巨匠エドワード・ズウィックとのコラボによる「グローリー」「レジェンド・オブ・フォール」、そして俺たちのメル・ギブソンとの「ブレイブハート」「アポカリプト」など傑作沢山あります
蛇足ついでに私のブログに記載した「2010年代のサントラベストテン」(1位がホーナーの遺作「マグニフィセント・セブン」)もご興味があればどうぞ
それではまた、映画とクラシック音楽で会いましょう
今回は映画音楽の巨匠が手がけたシュワルツェネッガー映画を出発点に、プロコフィエフやソ連のクラシック音楽を巡るミステリアスなお話を紹介します。(ややオーバーなイントロダクションなので、読んで怒らないでくださいな(笑))
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皆さんジェームズ・ホーナーという作曲家を知っているでしょうか?
アメリカの映画音楽の作曲家で、代表作「タイタニック」でアカデミー賞の作曲賞および主題歌賞を受賞しています。
私が映画音楽を好きになったきっかけはジェームズ・ホーナーでした。
中学のころテレビの洋画劇場で観た「スタートレック2」の音楽に心からしびれて、生まれて初めて外国映画のサントラを買いました。当時はCDでなくLPレコードでした。
ジョン・ウィリアムズやジェリー・ゴールドスミスやエンニオ・モリコーネよりも先に私が心を打たれたのはジェームズ・ホーナーだったのです。
以来私が色々かかっている映画の中からどれを選ぶか?という判断基準の一つが「音楽がホーナーであること」でした。のちにウィリアムズやデイブ・グルーシンもそこに加わりますが。
私は「タイタニック」は彼の代表作ではあっても最高傑作とは思ってません。とは言え少年の頃から好きだった作曲家がアカデミー賞を取るのを観た時は感慨深いものがありました。
しかしなんと悲しいことか、ホーナーは2015年に自ら操縦する自家用飛行機の墜落で亡くなってしまいました。悲しみにくれてしばらくホーナーばかり聴いてました。
そんなホーナー好きの私は彼の悪いところもよく知ってます。
自作品の流用や、他人の作品の引用が多い…という点です。いや、そうした欠点も含めて彼の作品を愛し続けてきたのですが。
ここでは、ホーナーの自作品流用の話は映画音楽マニアすぎるので、他人の作品、主にクラシック音楽からの引用について書きます。
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クラシック音楽というのはいい意味で新陳代謝の悪いジャンルで、いまだにフルトヴェングラーの戦前のアルバムが買えたりするわけですが、サントラというやつは違います。
油断するとすぐ廃盤になり、もともと数がはけてないから中古でもそうそう見つからないのです。
あの時買っとけばよかった…と後悔しているサントラがいくつかあるのですが、その一つが「レッドブル」です。
念のため説明するとシュワルツェネッガーがソ連の刑事に扮し、逃亡犯を追ってシカゴにやって来る…というまあ、主人公がソ連なだけで内容的にはアメリカ映画でよく見る刑事アクションです。でもシュワルツェネッガーとジェームズ・ベルーシの米ソカルチャーギャップコントのようなセリフは面白かったですね。
ベルーシ「44マグナム、世界最強の銃だ」
シュワ「世界最強はソ連のポドビリン9.2mmだ」
ベルーシ「何言ってんだ?世界最強はこれだよ。ダーティーハリーだって使ってる」
シュワ「ダーティーハリーって誰だ?」
音楽はジェームズ・ホーナーでした。
彼の個性がよく出ている映画でした。無駄になりまくる尺八、ホーナー好きならお馴染みのメロディ、シンセとオケの融合…スコアはどれも素晴らしかったのですが、聴いてて一番テンション上がるのは、オープニングタイトルバックと、ソ連の警察の制服を身にまとったシュワルツェネッガーがカタブツロシア人っぽいむっつり顔で敬礼するカットから始まるエンドロールにかかる、コーラスと金属的なガンガンいうパーカッションが印象的なメインテーマでした。
といってもこのメインテーマは、プロコフィエフの「10月革命20周年のカンタータ」の一曲をアレンジしたものです。
これは映画音楽の本とか、シュワルツェネッガーの特集本とかにも書いてある、割と公然の引用です。
ホーナーが亡くなってからしばらく、私はまだ買ってなかったホーナーのサントラを色々探していました。
なかでも「レッドブル」欲しい!!と思って探していたのですが、公開から30年近くたち「レッドブル」のサントラは探せども探せども見つかりません。タワレコ渋谷など店頭はもちろん、iTunesなどオンラインでも見つかりません(カバー版の安っちい演奏なら見つけましたが)
せめてメインテーマの引用元でも聴こうかと、2019年のある日、私はプロコフィエフのそのカンタータのアルバムを求めてタワレコに行ったのですが…
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プロコフィエフとは言え、あまり人気のない曲なのか(今時ロシア革命を讃える曲とか流行らないのは仕方ないですが)、あの品数のタワレコ新宿と渋谷の両方を探して見つかったのは、写真のアルバムだけでした。
ウクライナのキリル・クラビツという指揮者(し、知らない…)のドイツのオケによる演奏です(シュターツカペレ・ワイマール)。録音は2017年とかなり新しいものです。
とりあえず買って聞いてみるわけですが、これがなかなか良いアルバムでした。
お目当ての「レッドブルのテーマ」は2曲目にしっかりと。
歌詞の内容は知れてますが意味はともかく重厚なコーラスは聴いててなんだか熱くなってきます。(レッドブルのオープニングの方が燃えますけど、あっちはだいぶアレンジされてますから)
他の曲も、マシンガンの連射音が鳴りまくったり(チャイコがキャノンなら俺はマシンガンだ!みたいな?!)、演奏中に指揮者自らが拡声器でレーニンの演説を叫ぶ椎名林檎風演出とか、ヤケクソ気味なプロパガンダ炸裂の楽曲の数々がイデオロギーを越えて無駄に胸熱な素晴らしい作品です。
重厚なオケとコーラスが渾然一体となって、ある種の熱狂の空間をきちんと作っていました。
(クラビツはイデオロギーは置いといて純粋に音楽として取り組んだそうですが)
10月革命20周年ということは1937年の作品でしょうか。
革命後西側で活動していたプロコフィエフがソビエトに帰国?したのが1936年のこと。引っ越し挨拶代わりの作品だったのかも知れませんね。
この時期はスターリンの独裁体制のころで、2年後には第二次大戦が始まるし、キナくさい時期らしい作品といえばそんな感じもします。
----
ところでこのカンタータを聴いていますと、思わぬところで、別のホーナーに出会いました。
ホーナーが音楽を担当した映画「ウィロー」(ロン・ハワード監督、ジョージ・ルーカス製作総指揮の80年代のファンタジー映画)で、悪の女王バブモルダのテーマとして使われていたメロディが、プロコフィエフの革命のカンタータのあちこちで聴こえるのです。
さては!ホーナーめ!ウィローでもこっからパクりやがったな!!と思ったわけです。
まあ、もしかするとホーナーは悪の魔女バブモルダに、ロシアの怪僧ラスプーチン的なものを感じたのかも知れません。
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話は変わりますが以前「2001年宇宙の旅」の紹介で、その作品で使われるハチャトリアンのアダージョも良いですよね!って話をしましたが、ホーナーが音楽を担当した「エイリアン2」でもオープニングで、そのハチャトリアンのアダージョと良く似た曲がかかります。
Wikipediaによると音楽の制作期間が短ったからと書いてますが、ホーナーの引用癖をよく知る私は違うと思ってます。彼は時間があっても使ったにちがいないのです。
しかもそのエイリアン2で使ったハチャトリアンのアダージョっぽい曲を、さらにちょっとアレンジしてやはりホーナーが音楽担当の「今そこにある危機」でも使っています。自分の曲と勘違いしてる疑惑…
さらに、ホーナーが音楽を担当したギリシャ神話時代の歴史大作「トロイ」でブラッド・ピット演じるアキレスのテーマが…ショスタコーヴィチの交響曲5番の4楽章にちょっと似てるところがありまして
もっともショスタコだってマーラーやワーグナーを引用しているので良いじゃないかと思うかもしれませんが
----
と、ここまで書いてて気づいたのですが、プロコ、ハチャト、ショスタってみんなロシア…って言うかソ連の作曲家ですね。
ホーナーのこのソ連音楽愛って何なんでしょ!?
でもま、調べてみるとシューマンやバーンスタインやニーノ・ロータとの類似も指摘されてるみたいで、なにもソ連エコ贔屓って事もないようです。
そういえば「スニーカーズ」の音楽もちょっとベト9に似てるんですよ。
いや、いいんですよ、引用が多くたって
ホーナーの映像と音楽をシンクロさせる職人ぶりはウィリアムズやゴールドスミスにまったく引けを取らないというか、なんなら世界一だったと思ってますから!
ホーナーが亡くなった時、ジェームズ・キャメロン監督と「アバター2」の音楽の話を始めていた頃だったとのこと。「アバター2」でホーナーの音楽を聴くことは叶わなくなりましたが、私はホーナーの楽曲をこれからも楽しむでしょうし、買ってないサントラを見つけたら買って、またなんかの曲の引用を見つけてはニヤリとすることでしょう
----
【余談】
私の選ぶ「ジェームズ・ホーナーの音楽がしびれるこの10作品!!」
1.スニーカーズ
2.スタートレック2 カーンの逆襲
3.エイリアン2
4.ウィロー
5.コクーン
6.ボビー・フィッシャーを探して
7.アバター
8.ロケッティア
9.今そこにある危機
10.ゴーリキーパーク
●補足解説
「スニーカーズ」
フィル・アルデン・ロビンソン監督、ロバート・レッドフォード主演の産業スパイアクションみたいな変な映画。ブランフォード・マルサリスをサックスソロにフィーチャーしてホーナー音楽がオシャレで軽快に鳴り響くメインテーマは絶品。第九に似たメロディは盲目のコンピュータ技師が車を爆走させるシーンにかかり、爽快感が素晴らしい。
ホーナーとロビンソン監督と言えば「フィールド・オブ・ドリームス」も傑作です。
「コクーン」
ロン・ハワード監督の宇宙人と爺さんたちの友情物語。スタートレックの延長的なスコアと、どこか「星に願いを」っぽいテーマ、そこにジャズ風の爺さんたちのテーマ、さらにロンハワード好みのロックサウンドまで混ざったおもちゃ箱ひっくり返した系の遊び心満載アルバム。ホーナーともっとも相性良かった監督がロン・ハワードだと思ってます。「アポロ13」も「ビューティフルマインド」も素晴らしい。
「ボビー・フィッシャーを探して」
「シンドラーのリスト」の脚本家で知られるスティーブン・ザイリアンの初監督作で伝説的チェス名人ボビー・フィッシャーの再来と言われたチェスの天才少年の成長物語。優しさを描いた映画に傑作の多いホーナーの優しさ系ベスト作品
「ロケッティア」
ジョー・ジョンストン監督によるヒーロー映画。ホーナーの長いキャリアを見渡すとどうも敬遠していたのではないかと思える2つのジャンルがあって、それが「ヒーロー」と「コメディ」。そんな彼の苦手ジャンルを次々と依頼していたのがジョンストン監督。「ミクロキッズ」「ジュマンジ」などのコメディと、そしてヒーロー映画の「ロケッティア」。
実はホーナーにとってジェームズ・キャメロンやロン・ハワード以上に魅力を引き出してくれたのがジョンストンではないか?
といっても「ロケッティア」は第二次大戦前の少し古きアメリカが舞台で「ノスタルジー」と「牧歌的雰囲気」というホーナー得意要素も強い作品でもあり、ホーナーの持ち味が発揮された快心のスコアとなっている
「今そこにある危機」
「フィールドオブドリームス」「タイタニック」等の成功で「泣かせのホーナー」の異名を持つようになったホーナー。たしかにホーナーの泣かせテクは一流で否定する気はないがしかし…
ホーナー音楽の真髄は映像の変化と完璧にシンクロした「映画を体感できる音楽」にあり、つまりはカットが目まぐるしく変わるアクション映画こそホーナーの真骨頂が楽しめるのである。彼の本当の二つ名は「激闘のホーナー」ではないか!ベイジル・ポールドゥリス先輩やジェリー・ゴールドスミス先輩を差し置いてそんなの名乗れないよと思ってるかもしれないが、その二大アクション巨匠にも匹敵する激アツ作曲家でもあると思ってます。
そんなアクションホーナー最高作が「今そこにある危機」だ。これを聞いて戦え!走れ!打ちのめせ!やっつけろ!
「ゴーリキー・パーク」
1983年のマイケル・アプテッド監督作品。
モスクワを舞台にしたモスクワ市警の刑事を主人公にした犯罪映画。主演はウィリアム・ハートで台詞は英語で、80年代のこの時期モスクワでロケできたはずもなく、ヘルシンキなどでロケしたという、とっても風変わりな映画。
メロディラインに後の「コマンドー」や「レッドブル」や「今そこにある危機」でも聴こえるものの雛形が見て取れてホーナー好きには興味深い(いやこの作品より前の「48時間」ですでに聞くこともできるのですが)。一方で、若い頃のホーナーによく見られるパーカッションやブラスでグイグイ盛り上げる追跡シーンの音楽などかなり手に汗握る。
勝手に「ゴーリキーパーク」「レッドブル」「スターリングラード」の3作を「ホーナーのソ連3部作」と呼んでます。
ホーナーは他にも
戦争大河ドラマ風映画の巨匠エドワード・ズウィックとのコラボによる「グローリー」「レジェンド・オブ・フォール」、そして俺たちのメル・ギブソンとの「ブレイブハート」「アポカリプト」など傑作沢山あります
蛇足ついでに私のブログに記載した「2010年代のサントラベストテン」(1位がホーナーの遺作「マグニフィセント・セブン」)もご興味があればどうぞ
それではまた、映画とクラシック音楽で会いましょう
いろいろ思い出すことができた文章でした。
コメントありがとうございます
80年代のホーナーのSF映画音楽は傑作ばかりでしたね!
実はクルールはまだ見たことがないのですがあの頃のホーナーなら傑作に違いないですよね!
私はホーナーから入ってウィリアムズに行きましたが、そんな私もウィリアムズを聞くようになってからは、うーーんホーナー君この辺甘いよ、などと上から目線な感想持ったりしてましたww