日本経済を活性化するためには、政府レベルによる構造改革も重要だが、個々の企業が簡単に実行できる対策もある。経済の成長と国際的な競争力の源泉は人的資本の育成と人材の有効活用にあることは言うまでもない。
しかしこれまで日本企業、とりわけ人事部門は、人的資本の蓄積を大きく阻害してきた。日本企業は、新卒、とりわけ文系の学生を採用するときに、大学時代にやった勉強を問わないことが多い。このため、入試まで必死に勉強してきた学生も、大学に入るとレジャーランドに来たような気分になって、スポーツなどのサークル活動だけに励む学生が多い。
もちろんサークル活動で、多数の人の意見をまとめ、活動を動かしていく経験は非常に有益なものである。しかし同時に学生生活の両輪であるべき勉学については、卒業単位を取得するためだけに楽勝科目を選び、試験直前だけに詰め込み勉強する学生が多いのが実情である。
しかし企業に入社すると、英語、中国語などの外国語や基礎的な数学、法律、会計の知識は必要不可欠となる。これを入社してから長い残業の後で習得するのは、当然不十分なものになるだろう。時間が有り余る学生時代を無駄に使ってしまったことになる。
やはり企業は学生に向かって、「重要科目の成績がよくない学生、語学ができない学生は採用しません。そうでないと中国をはじめとするアジア諸国の人材とは競争になりません。大学でちゃんと勉強してきなさい」と言い放つべきではないだろうか。
これまで採用を担当する人事部は、学生に対してそういう言い方をしてこなかったから「体育会系の部活で体力さえつけていればそれなりの企業に雇ってもらえるし、社内でも昇進できるだろう」という変な勘違いをさせてきたのではないか。
日本企業は、基本的な知的能力の必要性を学生に対して宣言すべきだ。きちんとした日本語の文章が書けて、英語が読み書きヒアリングでき、財務会計、会社法、数学がある程度わかることが必要だと宣言し、できない学生は入社試験で落とす必要がある。
企業がこうした採用方針で臨めば、学生もそれに応えて企業で必要なスキルを身につけるように励むだろう。これは大学にも授業内容を刷新するプレッシャーを与え、将来の人的資本の蓄積を刺激するだろう。(山河)