以下は今日の産経新聞に掲載された宮家邦彦の定期連載コラムからである。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。
特に岸田首相と宏池会のメンバーは心して読まなければならない。
彼らは気づいていないかもしれないが、今の国際情勢は、彼らにとって国賊、売国奴の政治屋になるのか、日本と世界を守り、救い、米国と並んで、後170年、「文明のターンテーブル」を進展させる政治家になるのかの瀬戸際なのである。
岸田文雄が首相に成っても宏池会の会長を辞めていない事の意味合いを、霞が関有数の慧眼の士だった高橋洋一は、昨日、ご紹介した彼のYouTubeチャンネルで見事に解明し教えてくれている。
彼は何をしているのか?人事を、人事だけをしているのだ。
彼の指摘通りであれば、日本国民は、今、我が国を取り巻く極めて危険な状況に対応するには極めて不安な人物を首相にしているのだから。
我々は、彼が、これまでの単なる優柔不断な政治屋で宏池会の伝統なのだろうが、あろうことか、朝日新聞等の論説に影響されるだけの政治屋にとどまるのか、
安倍晋三の遺志を受け継いで日本と世界を守り「文明のターンテーブル」を進展させる政治家になるのかを注視し続けなければならない。
もし岸田文雄が前者のままならば、日本は、即刻、彼を退場させなければならない。
見出し以外の文中強調は私。
「安倍首相」が変えた日本外交
かくも早く安倍晉三元首相の追悼コラムを書くことになるとは夢にも思わなかった。
この悔しさと怒りと悲しみが交錯する重苦しさは人生初の経験だ。
今後も二度と経験することはないだろう。
この喪失感を如何に表現すべきか。
現代風に言えば、日本外交は「超高性能GPS衛星を一つ失っただけでなく、当分代替機が手に入らない」ような危機的状況にある。
今も多くの方々から安倍氏の対米外交や対中、対露交渉の功罪について質問を受ける。
あの付き合いが難しい米国のトランプ前大統領、トルコのエルドアン大統領、フィリピンのドゥテルテ前大統領となぜウマが合うのか。
その外交力の源は何なのか。
安倍氏のやさしい人柄や人間的魅力があることは間違いない。
だが、安倍外交の真骨頂は個々の外交的成果ではない。
その最大の功績は、第二次大戦後から染み付いた日本の伝統的外交・安保政策決定過程を根本から変えたことである。
日本の名誉回復
安倍外交の究極目的は「敗戦により失われた日本の国際的立場と名誉を取り戻す」ことだったと推測する。
それにはまず、自由、民主、法の支’配、人権、人道などの普遍的価値を体現し、力による現状変更に反対する国際社会の大義名分の下に日本が立っていることを明確にする必要がある。
そうすれば将来の大規模な国際紛争や環境激変の中で日本が「勝ち組」に残り、その後の国際的ルール作りに参画できるからだ。
戦前日本の最大の失敗は、結果的に日本が「現状変更勢力」と見られてしまったことである。
商人国家からの脱皮
今、東アジアではそのような大規模な環境激変が現実に起きている。
日本が生き残るためには安保政策の抜本的な変革が必要だ。
戦後長く日本は軽武装と日米安保依存による経済成長重視政策により繁栄を享受してきたが、米国の対外政策の優先順位は中東でのテロとの闘いから、インド太平洋での中国抑止に移りつつある。
当然、従来の「商人国家」的対応だけでは早晩立ち行かなくなるはずだ。
■日米同盟の相互化
欧州と異なり、日本には中露という2ヵ国の潜在的脅威がある。
日本に日米同盟は必要だが、米国も対中抑止のため在日米軍基地を必要とする。
同盟の機能強化には日米安保の「相互化」、すなわち安保法制と憲法解釈変更が不可欠だったのである。
実はこの発想、安倍氏自身の発明ではなく、岸信介元首相の持論だった。
その意味で安倍氏は父・安倍晋太郎元外相の子である以上に、岸元首相の孫なのだろう。
日米のさらなる和解
これだけの努力をしても日米安保条約はあくまで文書に過ぎない。
同盟がさらに進化するには両国民レベルの和解が必要だった。
その障害の一つが「広島・長崎」と「真珠湾」である。
安倍氏はここでも周到な準備を行い、当時のオバマ米大統領の広島訪問と日本首相の真珠湾訪問を実現させた。
両国内には慎重論が燻っていたにもかかわらず、である。
これこそ真の「戦略的外交」ではないか。
先日、米国の親しい友人からメールが来た。
曰く「安倍さんは日本を変え、日米関係を変えた。彼のおかけで世界が日本の意見に耳を傾け、日本を全く知らない米国の大統領が日本に注目し始めた…」。
確かにそうだな、と思う。
国内政治で政治家安倍晋三が如何に理不尽に評価されようと、彼の国際的評価は不変だ。
残された我々は将来「安倍晋三が生きていたら、こうはならなかった」などと言われない外交を進めるべきだ。
米国の友人は最後に言った。
「安倍晋三の遺産は日本がこうした外交を続けることだ」と。