木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

賜杯と頭蓋骨

2009年10月12日 | スポーツの周辺
大相撲の優勝者には内閣総理大臣杯が土俵の上で授与される。見慣れた光景である。また、サッカーやバレーボールなどには天皇杯が冠される大会がある。
この杯は、英語で言うと、勿論CUPである。
勝者がCUPを貰うのは、戦勝国の軍人が敗戦国民の頭蓋骨を割って、その中に酒を入れて飲み交わしたからだと言われている。

では、日本の杯の起源はどうであろう。
日本では、茶席や宴席の後で、客が茶器や杯を持って帰る習慣があった。この習慣が後には、箱詰めしてお土産に持たされるようになり、更には口をつけてもいない杯を贈答する行為にまで変化した。
もともと、酒は智水とも呼ばれ、賢くなる薬とされていた。お祭りの際に呑むものであり、神事に関わっていた。今でも初詣などの際にはお神酒を貰うが、これは神霊の分霊を貰って幸福を得るという思想に基づくものである。酒には神様の霊魂や霊力の延長が存在するという意識である。
酒を他人に贈る行為は、自分の魂の分霊を送る行為であった。

余談になるが、この酒にはつまみが添えられるのが普通であった。そのつまみは、のしアワビと決まっていた。
時代が下るとのしアワビは省略され、包み紙のみとなった。これが熨斗(のし)の語源である。
今は熨斗も印刷されたものが多くなったが、よく見ると、黄色いものが上にはみ出している。これが、のしアワビである。

酒が神聖なのと同様に杯も神聖なものである。
天皇が賜杯されるのも、もとは神聖な行為だったのである。
昨今、大相撲の外国化が言われて久しいが、朝昇龍をはじめ、諸外国の力士はこの日本的習慣について知っているだろうか。
彼らはCUP式に相手の頭蓋骨に酒を入れて呑みたいほうかも知れない。
ガッツポーズを禁止する前に、なぜガッツポーズがいけないかを納得の行く説明をして上げないと、横綱の品位以前の問題として水掛け論になってしまう可能性が極めて高いのではないだろうか。


日本人の歴史 樋口清之 講談社


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