六月の氷菓一盞の別れかな 中村草田男
氷菓(ひょうか)にもいろいろあるが、この場合はアイスクリーム。あわただしい別れなのだろう。普通であれば酒でも飲んで別れたいところだが、その時間もない。そこで氷菓「一盞(いっさん)」の別れとなった。「盞」は「さかずき」。男同士がアイスクリームを舐めている図なんぞは滑稽だろうが、当人同士は至極真剣。「盞」に重きを置いているからであり、盛夏ではない「六月の氷菓」というところに、いささかの洒落れっ気を楽しんでいるからでもある。「いっさん」という凛とした発音もいい。男同士の別れは、かくありたいものだ。実現させたことはないけれど、一度は真似をしてみたい。そう思いながら、軽く三十年ほどが経過してしまった。(清水哲男)
【六月】 ろくがつ(・・グワ・・)
6月は俳句の上では仲夏になる。緑も深まり、夏らしさが目について来ると同時に梅雨入りの時期でもある。
例句 作者
六月のわが隠れ場に河馬を飼ふ 高島さつ子
六月や比叡をはなるゝ根なし雲 下村牛伴
山毛欅の樹の水を吸ふ音六月来 平野無石
六月の女坐れる荒筵 石田波郷
六月の花のさざめく水の上 飯田龍太
六月の砂浜に逢ふ人もなく 星野高士
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