田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『大いなる西部』

2020-09-25 07:02:58 | 1950年代小型パンフレット

『大いなる西部』(58)(2012.10.17.鎌倉市川喜多映画記念館)



 一時期、妻と共に「お気楽映画談議」というブログをやっていた。その時の記事から。

 夫…この映画の主人公はグレゴリー・ペック扮する東部から西部にやって来たマッケイ。ところが、本来ヒーローであるはずの彼の行動や言動が何だか身勝手に見えて感情移入ができないんだな。むしろ彼と敵対するチャールトン・ヘストン演じる西部の牧童頭リーチの方が魅力的だし、行動や心情にも一本筋が通っている。というわけで、この映画はヒーロー西部劇としてはちょっと異端なんだね。プロデューサーも兼任したペックが、あえて自分を損な役回りにしたのだとすれば、それはそれですごいと思うけど…。

 妻…初めて見た時はペックのさわやかさにやられてしまいましたが、今回は違ったぞ。マッケイの空気読めなさ加減にうんざり。人の忠告を聞かない、自分が大好きな男なんだから。

 夫…この映画はペックVSヘストンというヘビー級の対決に加えて、水源地をめぐるバール・アイブスとチャールズ・ビックフォードの旧世代の親父同士の対決、マッケイを間に挟んだジーン・シモンズとキャロル・ベイカーの女同士の対決が描かれているけど、そんな中、一人で右往左往するチャック・コナーズのドラ息子も結構いいんだよね。

 妻…チャック・コナーズのダメダメぶりがかわいいです。

 夫…後は、対立する両家の間をひょうひょうと渡り歩く牧童を演じたメキシコ人俳優のアルフォンソ・ベドヤがいいね。彼はジョン・ヒューストン監督の『黄金』(48)などにも出ていた名脇役だけど、残念ながらこの『大いなる西部』が遺作なんだね。

 妻…そんな人いたっけ? 毎度、顔と名前が一致せん。『黄金』は私のベスト映画の一本ですが…

 夫…ペックが乗る荒馬の世話をしていて、ラストでペックとシモンズと共に馬に乗って去っていく彼だってば。

 夫…この映画の日本公開当時(1958)の批評を読むと「ウィリアム・ワイラー監督の横綱相撲」なんてことが書いてあって、すこぶる評判がいい。寂しいことに、今やワイラーの名前は、オードリー・ヘプバーンの『ローマの休日』(53)の監督としてしか語られないところがあるけれど、当時は巨匠中の巨匠という存在だったんだよね。

『これぞ映画遺産!!次世代に残したい名作映画96』 


パンフレット(58・松竹事業部(SHOCHIKU KAiKAN CENTRAL THEATRE 1959 NO33.))の主な内容は
「大いなる西部の六人」「大いなる西部」印象的の場面/ルファス・ヘネシイ/激闘シーンに実に十四時間を費やす/物語/出演者の横顔/大いなる西部に就いて(南部圭之助)/ウィリアム・ワイラー大河監督とその足跡/西部劇の歴史・西部劇百科(南圭生)

 

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『道』

2020-09-17 07:19:49 | 1950年代小型パンフレット

『道』(54)(1980.7.27.世界名作劇場)



 粗野な大道芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)と、彼が買い取った少し頭の弱い女ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は旅から旅の流れ者。そこにサーカスの綱渡りの青年“キ印”(リチャード・ベースハート)が現れ、奇妙な三角関係が生じる。サーカスの世界に憧れたフェデリコ・フェリーニが、大道芸人のわびしい生活と不器用な愛の悲しさを描いた名作。

 やっと見た! 期待通りの素晴らしい映画だった。フェリーニの初期の映画を見たことがなかった自分にとっては、これまで見た『甘い生活』(60)『サテリコン』(68)などから、ちょっと小難しいイメージがあったのだが、この映画は、情感がストレートに伝わってくる『アマルコルド』(73)の路線だった。それ故、素直に感動させられた。

 聖女を連想させるジェルソミーナ、粗暴で悪行ばかりだがどこが憎めないザンパノ。2人は与える者と奪う者という人間の両極を象徴する。そして2人の間に、真理の言葉を発する第三の男キ印を割り込ませることで、この映画には哲学的な側面が生じた。演じた3人もそれぞれ名演を見せる。また、フェリーニがこだわり続けたサーカスや、大道芸のもの悲しい描写が、映画全体に情感を与えている。

 ラスト、散々虐げた挙句に捨てたジェルソミーナの死を知ったザンパノ。彼はやっと失ったものの大きさに気づき、酒に酔い、一人浜辺で号泣する。そのバックに、ジェルソミーナがラッパで吹いていたあのメロディが…。何故かオレもザンパノと一緒に泣いたのだった。

 【今の一言】和田誠の『お楽しみはこれからだ』に載っていた、キ印がジェルソミーナを励ます名セリフ「どんなものでも何かの役に立つんだ。たとえばこの小石だって役に立っている。空の星だってそうだ。君もそうなんだ」は、拙書『人生を豊かにするための50の言葉-名作映画が教えてくれる最高の人生の送り方』でも紹介したが、もう一つキ印がジェルソミーナに語るこんないいセリフもあった。「奴(ザンパノ)はお前のことが好きなんだよ。ただ奴はそれに気づいていないだけなんだよ」 

アンソニー・クインのプロフィール↓


ジュリエッタ・マシーナのプロフィール↓


名画投球術 No.5「たまには映画もイタリアンといきたい」ニーノ・ロータ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d99f98184f88ad18b0db44f37e379796
ジェルソミーナのテーマ
https://www.youtube.com/watch?v=QCYUda7-ZgM

パンフレット(57・東宝事業課(日比谷スカラ座 No57-9.))の主な内容は
「道」の人物について(高李彦)/フェデリコ・フェリーニ監督/「道」を彩る人々(アンソニイ・クイン、ジュリエッタ・マシーナ、リチャード・ベイスハート)/「道」それは新しいイタリア映画の出発点(飯島正)/かいせつ/ものがたり

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『黄金』

2020-09-10 07:04:33 | 1950年代小型パンフレット

『黄金』(48)(1992.5.31.)



 メキシコで、観光客相手に日銭を稼いで生きるドブス(ハンフリー・ボガート)とカーティン(ティム・ホルト)は、黄金探しに熱中する老人ハワード(ウォルター・ヒューストン)の話を聞き、一緒にシエラマドレ山中に砂金探しに行くことになるが…。

 主要な登場人物はたった三人の男たちだけなのに、この面白さときたらどうだ。出来不出来の波があるジョン・ヒューストン監督作としては、恐らく最高傑作だろう。

 単なる金鉱探しの話から始まって、徐々に人間の本性を暴き出していく脚本が抜群だし、カラカラに乾いた雰囲気を見事に表現したテッド・マッコードのカメラワークも素晴らしい。その相乗効果を経て、最後は監督の父親でもあるウォルターの高笑いとともに、男の悲しさや、夢の空しさを強く印象付けるという具合。

 思えば、ジョン・ヒューストンが作る映画は、総じてハリウッドやアメリカという枠を突き抜けた、無国籍的な印象がある。だから、ケビン・コスナーも、メキシコを舞台にした『リベンジ』(90)を、「本当はヒューストンに撮ってもらいたかった」と語ったのだろう。

ウォルター&ジョン・ヒューストン

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『鉄道員』

2020-09-03 07:09:01 | 1950年代小型パンフレット

『鉄道員』(56)『SCREEN特別編集』文化の泉シネマアベニューvol.2(2012.3.1.)



パンフレット(58・池袋劇場)の主な内容は
ピエトロ・ジェルミ監督/かいせつ/ものがたり/エドアルド・ネヴォラ、ルイザ・デラ・ノーチェ、シルヴァ・コシナ/鉄道員のついて(津村秀夫)

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『雨に唄えば』

2020-07-21 07:04:21 | 1950年代小型パンフレット

『雨に唄えば』(52)(2010.4.12.TOHOシネマズ六本木ヒルズ)



 今日は、カーペンターズが「雨の日と月曜日はいつも憂鬱になる」と歌ったような日だった。けれども、この映画のクライマックスのジーン・ケリーのように、自分を解放させてどしゃぶりの雨の中でも歌い踊ってしまえたら、逆にすっきりするのだろうかと、ついつい思ってしまう。とは言え、実際はあんなことができないからこそ、あのシーンに感動させられるのだろう。

 あのシーンを最初に見たのは、MGMミュージカルの名場面を集めた『ザッツ・エンターテインメント』(74)の一部としてだった。75年の3月21日、丸の内ピカデリーの上映初日のこと。すごいものを見たと激しく感動すると共に、ジーン・ケリーの歌声と甘くてちょっと哀愁もあるメロディーが耳に残り、なぜか家にあった親父の古いレコードを繰り返し聴いた覚えがある。

 だが、ビデオもDVDもなかったあの時代は、本編とはなかなか出会えなかった。だから先に名画座で見たスタンリー・キューブリック監督の『時計じかけのオレンジ』(71)の暴力シーンでこの曲が使われていたことに驚き、原田眞人監督の『さらば映画の友よ インディアンサマー』(79)という珍品で、川谷拓三がパロディーシーンを演じているのを目にして違和感を抱かされた。

 やっと本編を見たのは、83年の9月18日。テレビの吹き替え版だったが、ミュージカルの中にサイレントからトーキーに移行する過渡期の映画界の様子が巧みに盛り込まれており、先人たちの言う通りとても面白かった。ビデオに録って何度も見返した。そして、ジーン・ケリーはもちろん、ドナルド・オコナーの至芸に酔い、2人の芸達者に挟まれたデビー・レイノルズの頑張りに拍手を送った。ただ、後に名画座できちんと見直した時は、1人で憎まれ役を背負ったジーン・ヘイゲンがかわいそうに見えるところもあった。

 「メーク・エム・ラフ=笑わせろ」と「ブロードウェイ・メロディー」の中の「ゴナ・ダンス=踊らせろ」のフレーズがまさにこの映画のテーマを言い当てている。そして「グッド・モーニング」と「雨に唄えば」を聴くとやはり元気になれる。

 映画の技術革新は日進月歩。現代はこの映画で描かれたトーキーはおろか、ワイド画面、カラーは当たり前になり、CGももはや珍しいものではない。そのうち映画は3Dが主流にになって、「えっ、この映画は3Dじゃないの」なんて言われる時代が来るのだろうか。

ジーン・ケリーのプロフィール↓


デビー・レイノルズのプロフィール↓

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『眼下の敵』

2020-07-15 06:44:06 | 1950年代小型パンフレット

『眼下の敵』(57)(1989.8.25.)



 第二次大戦下、米駆逐艦と独潜水艦の激しい攻防戦を、両艦の艦長(ロバート・ミッチャム、クルト・ユルゲンス)を中心に、海の男たちのフェアな戦いとして描く。

 前に見たのは中学の頃だから、当然、今ほどは戦争に対する知識も認識もなかったので、この映画も、単純に手に汗握る面白い戦争映画という印象だった。ところが、その後、ベトナム戦争を描いた悲惨な映画を見過ぎたせいか、今改めて見ると、かえって新鮮なものとして映ったし、娯楽という意味では、こうしたドイツ軍に敬意を払った“敵将あっぱれ映画”があってもいいではないか、という気がした。

 ドイツ兵の中に、セオドア・バイケルの姿を発見。彼は、『手錠のまゝの脱獄』(58)ではアメリカの保安官、『アメリカ上陸作戦』(66)ではソ連軍の船長を演じていた。このあたり随分いい加減ではある。面白い俳優だが、一体何人なんだろう。

【今の一言】セオドア・バイケルはオーストリア、ウィーン出身のユダヤ系ドイツ人だった。

ロバート・ミッチャムのプロフィール↓


クルト・ユルゲンスのプロフィール↓

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『情婦』

2020-06-23 06:12:15 | 1950年代小型パンフレット

『情婦』(57)(1986.2.4.銀座文化)

 未亡人殺害の容疑者レナード(タイロン・パワー)は、老弁護士ウィルフリッド卿(チャールズ・ロートン)に弁護を依頼する。だが、レナードの妻クリスティーネ(マレーネ・ディートリッヒ)が証人として出頭し、驚きの証言を行う。



 先にテレビでドラマ版の「検察側の証人」を見てしまったので、話の大筋は分かっているのに、さすがはワイルダー。ストーリーを知ろうが知るまいが(もちろんこの映画の場合は知らないに越したことはないのだが…)、最後まで飽きることなく見せられてしまった。

 何より素晴らしいのは、ロートン、ディートリッヒ、パワー、エルサ・ランチェスターという俳優陣。ドラマ版でも、ラルフ・リチャードソン、ダイアナ・リグ、ボー・ブリッジス、デボラ・カーといった芸達者が演じていたが、どう見てもこの映画の方が上である。役者を生かすワイルダーの演出のうまさがここでも証明される。

 加えて、原作や戯曲にはないシーンを作ってストーリーに膨らみを持たせ、ロートン演じる弁護士の日々の生活、ランチェスター演じる看護婦とのやり取りなどの、細かい描写を積み重ね、葉巻や薬、片眼鏡といった小道具を巧みに使いこなす。まさに名人芸である。

チャールズ・ロートンのプロフィール↓


タイロン・パワーのプロフィール↓


ビリー・ワイルダーのプロフィール
 

パンフレット(58・松竹事業部(MARUNOUCHI SHOCHIKU NO.11))の主な内容
お願い!/解説/巧緻な演出になるクリスティの法廷ドラマ(植草甚一)/ものがたり/この映画の御理解をお助けするために/オールド・ベイリー(中央刑事裁判所)について/アガサ・クリステイ素描/四つの素晴らしい魅力(南部圭之助)/マレーネ・デイトリッヒ、タイロン・パワー、チャールス・ロートン、ビリイ・ワイルダー(監督)/「情婦」に寄せられた著名人のアンケート

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『心の旅路』

2020-06-11 06:25:54 | 1950年代小型パンフレット

『心の旅路』(42)(1989.1.8.)



 テレビは2日間天皇特番一色。そんな中、教育テレビの「世界名作劇場」で放送されたこの映画がキラリと光った。

 『哀愁』(40)などを代表作に持つ、マービン・ルロイ監督お得意の大メロドラマで、主演はロナルド・コールマンとグリア・ガースン。見る前は、日本で言えば、新派大悲劇といった感じで、古くささは否めないだろうと思っていた。

 ところが、この古い古いメロドラマ、しかも主人公(コールマン)が二重の記憶喪失に陥るというとんでもない設定であるにもかかわらず、特にばかげた話とは映らなかった。

 そればかりか、今のSFXや過激なアクションが主流の映画にはない、しっとりとした味わいがあり、何か新鮮なものを見せられた気さえしたのである。

 これは当時のハリウッド映画は、あくまでストーリー主体であり、これは夢のある嘘をいかに本物らしく見せるかに心血を注いだ結果なのではないだろうか。

 映画もドラマも、基本はストーリーにあるはず。それなのに、今の映画はあまりにも映像で見せることに固執し過ぎてはいないだろうか。そんな疑問を感じさせてくれる映画だった。

グリア・ガースンのプロフィール↓


ロナルド・コールマンのプロフィール↓

パンフレット(47・スバル興業宣伝部(Subaru9))の主な内容
「心の旅路」物語(清水千代太)/原作と映画(双葉十三郎)/鑑賞講座「心の旅路」(田村幸彦)/やるせなき愛感(五所平之助)/記憶喪失症の映画(式場隆三郎)/原作者ヒルトンについて(植草甚一)/監督者マービン・ロルイ(淀川長治)/ハリウッドと欧州映画人(野口久光)

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『翼よ!あれが巴里の灯だ』

2020-06-03 06:29:09 | 1950年代小型パンフレット

『翼よ!あれが巴里の灯だ』(57)(1997.7.6.)



 ロバート・ミッチャムとジェームズ・スチュワートが相次いで亡くなった。ミッチャムはなかったが、さすがにスチュワートの方は、追悼映画が放映された。チャールズ・リンドバーグのニューヨークからパリへの無着陸飛行の様子を描いたこの映画を改めて見ると、ビリー・ワイルダー監督の回想シーンの織り込み方や小道具の使い方のうまさが再確認できる。

 また、ほとんどが飛行機内のコクピットで展開する、いわば一人芝居の密室劇のため、スチュワートの魅力も十分に堪能することができる。追悼映画としてはいい選択だったのではないか。

 ジェームズ・スチュワートについては、和田誠さんの『お楽しみはこれからだ』シリーズなどで、彼について書かれたものを読み、以後、意識的に彼の映画を見るようになったのだが、どの映画を見ても、植え付けられたイメージが損なわれることはなかった。言い換えるなら、どんな役柄の演技を見ても、いい意味で、全てが“ジェームズ・スチュワート”だったのである。

 清く、正しく、美しく…、今や死語となったそんな表現が嫌味なくはまる人であり、名優とか二枚目といった枠を超越した不思議な存在の人でもあった。そして、誰も彼のまねはできないことを考えると、笠智衆同様、無個性を個性に変えた、希有な俳優だったとも思うのだ。



ジェームズ・スチュワートのプロフィール↓


ビリー・ワイルダーのプロフィール↓

パンフレット(66・東宝事業課(ニュー東宝 No66-5.))の主な内容は
解説/物語/ジェームス・スチュアート/ビリー・ワイルダー/航空映画の歴史的名作としての「翼よ!あれが巴里の灯だ」(岡俊雄)/チャールズ・リンドバーグ

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『深夜の告白』

2020-05-14 06:29:38 | 1950年代小型パンフレット

『深夜の告白』(44)(1991.5.1.)

 保険外交員のウォルター(フレッド・マクマレイ)は、人妻のフィリス(バーバラ・スタンウィック)から夫に傷害保険をかけたいと相談される。ウォルターは不審に思うが、フィリスの魅力に心を奪われ、夫殺害の共犯者となる…。原作はジェームズ・M・ケインの『倍額保険』



 戦前のビリー・ワイルダー監督作。主人公の告白で始まる、暗く陰惨で救い難い話なのに、語り口の巧みさや、回想シーンの挿入のうまさで見せ切るという手法は、後の『サンセット大通り』(50)にもつながるものがある。この映画の脚本は何とレイモンド・チャンドラー。ワイルダーとチャンドラーとは意外な組み合わせではないか。

 さて、当時は、これでも十分に衝撃的であったであろう話が、今見ると、犯罪の経緯などが幼稚に見えてしまうのは、ワイルダーのせいではなく、この手の犯罪がより複雑になり、巧妙に行われるようになったからだろう。

 それが証拠に、多発される2時間ドラマなどで扱われる犯罪の手口やトリックは、この映画が描いたものよりも、何倍も手が込んでいる。ただ、それが映画やドラマとしてよくできているかどうかは、また別の問題になる。この映画の見事な語り口を見ると、そんなふうに思わされる。

バーバラ・スタンウィックのプロフィール↓


ビリー・ワイルダーのプロフィール↓

パンフレット(53・国際出版社)の主な内容
解説/ストーリー/撮影余話/スタアMEMOフレッド・マクマレー、バーバラ・スタンウィック/エドワード・G・ロビンスン(『恋ざんげ』解説/物語/此の映画に寄せられた批評/ジャン・クロード・パスカル、アヌーク・エメ)

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