『フルメタル・ジャケット』(87)(1988.3.29.丸の内ルーブル)
サウスカロライナ州の海兵隊訓練基地で、鬼教官ハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)の地獄の特訓を受ける新兵たち。人間性をなくすことを求められ、追い詰められていくうち、不器用な劣等生レナード(ビンセント・ドノフリオ)は精神に異常をきたしてしまう。やがて新兵たちはベトナムの戦場へ送り込まれていくが…。
スタンリー・キューブリック監督が、ベトナム戦争を背景に、殺人兵器へと変貌していく新兵たちと過酷な戦場を痛烈なユーモアと迫力の演出で描く。
これまでのキューブリックの映画は、公開時はすごいという者がいる半面、訳が分からないとか難解だという者もいて評価が割れるが、時がたつに従って神格化されるという、不思議な魅力を持ったものが多かった。その点、この映画は公開前から評判がよく、「最高のベトナム映画」という声もあったほど。
見てみると、なるほど“キューブリック臭さ”があまりない。そればかりか、ごく普通のベトナム映画として見ても違和感はない。これまでのキューブリックの映画が頭に残っている者にとっては拍子抜けすら感じさせられた。
極端にいえば、『プラトーン』(86)や『ハンバーガー・ヒル』(87)といった最近のベトナム戦争の真実に迫った映画と比べてみても、それらを大きく上回っているとは思えなかった。キューブリックにしてもベトナム戦争を描くことは荷が重かったのかという気がして、改めてベトナム戦争の巨大さや複雑さを思い知らされた。
だが、ベトナム戦争云々ではなく、戦争そのもの、あるいはそれに付随する人間教育という面から見ると戦慄を覚える映画であるともいえる。その点にわずかにキューブリックらしさを感じた。エンディングに流れるローリング・ストーンズの「黒くぬれ!」が印象的だった。
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