硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-09-17 17:29:19 | 小説
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「急に頼んで悪いな」
「きにすんな。なんや、荷物はそれだけか? 」
「そう。これだけ」
「嘘やろ! それに、今時、マジソン・スクエアガーデンて! 」

思わず、ツッこんだけど、色あせて変色したスポーツバッグが、よお似合っとった。

「モノもちがいいと言ってくれ」
「なんか、ちょっとダサない? 」
「そう言う浩二がダサい。今は、これがナウい。」

そう言って、ようじは笑っていた。

「大学受かったんやってな。おめでとう。みんな無理やろって言うてたで。」
「予想を覆す。それが、俺。」
「いやぁ~。かっこええなぁ。なんやろな、その自信。『トップガン』のトム・クルーズみたいやな。」
「お前、それ、嫌みか。」
「あほやなぁ、ほんまの事やん。けど、ほんまに駅まででええん?なんなら、新幹線乗り場まで高速飛ばしてくで。」
「ありがとう。けど、駅まででいいよ。電車の方がカローラより早いし。」
「・・・・・・・降りてくれるか? 」
「嘘。浩二のカローラは最高」
「わかってくれとったらええ」

一年ぶりくらいの再会やったけど、冗談を言い合うと、すぐにあの頃に戻った。俺は、ギアを一速に入れ、クラッチをつなぎ、また、家と家の間を車がぎりぎり通れる幅の道をゆっくり走り出した。
 いつも思うけど、もうちょっと道を広げてくれたら皆が助かるのに、この辺の人はブロック塀の方が大事やで、何ともならんのやろな。

「寒かったら、窓閉めてくれよ。」
「おおっ。あれっ、パワーウインドない。」
「うるさいわ。そんなもんいらん。腕の力で回すんや。」

最近の車はパワーウインドが標準装備されてて、この手回しで窓を開け閉めするって言うのも、いつか、懐かしいなって思える時が来るのかもしれん。