ITニュース、ほか何でもあり。by KGR

ITニュースの解説や感想。その他、気になる話題にもガンガン突っ込む。映画の感想はネタばれあり。

映画「ビッグショート」に思う、その2 デリバティブ

2016-03-18 00:07:24 | 映画関連
さて、住宅価格の半ば永続的な上昇を期待して、無理やり審査を通した
準優良顧客(不良とまでは言えないものの決して優良とは言えない顧客)向けの
住宅ローン=サブプライムローンの破綻の可能性について書いてきた。

前項の最後の方に書いたが、銀行のローン原資もモーゲージ証券などなので、
住宅ローンが焦げ付けば証券も焦げ付く可能性がある。

より大きい問題はデリバティブ。

デリバティブとは、金融派生商品のこと。
と言ってもカタカナを漢字に置き換えただけで、すんなり腑に落ちるわけではない。
スワップやオプションやその組み合わせです。

何らかの現物を担保に証券化するのではなく、売買の権利や先行きの見通しを根拠に
証券化して売買するもの。
仕組みは多岐にわたり、わかりにくいですが保険みたいなものと思えばいいかも。

映画で出てくるCDSもスワップの一種でデリバティブです。

モーゲージ証券で多額の投資をするとしよう。

この証券の発行母体、あるいはそのモーゲージの債務者が破綻しないとは限らない。
約束の配当(利息)が得られないどころか、金額が減額されたり、償還が遅れたり、
最悪償還できない可能性だってある。(ディフォルト=債務不履行)

この債券がどの程度安全かあるいは危ないかは投資する人が判断しないといけないが、
それはなかなか難しい。
投資する方が得られる情報が限られる(情報の非対称性という)からで、
誰かが調べて判断してくれると嬉しいというか助かる。

その役割が格付け会社。
その会社が出した債権ごとの格付け(信用格付け)が投資の重要な判断基準となるため、
格付け会社には厳格な格付け評価が求められるが、映画では大手格付け会社である
S&Pの格付けがいい加減だった、と表現されている。

さて、前回住宅ローンを小口債券化して、とは書いたが、
個別の住宅ローンを債券化するわけではない。

例えばこのモーゲージ証券はどこの何々さんがどこにどんな家を建てるので
何年ローンでいくら借りた住宅ローンを債券化したものです、というわけではない。

多くの住宅ローン、個別のリスクはいろいろ異なるが、それらを十把一絡げで束ねて
リスクを平準化し、さらに小分けにして債券化する。

どこの誰がいくら借りてようが関係なく、住宅ローンを貸した銀行なりの
審査能力や回収能力がその債券のリスクになる。

前回の続きになるが、仮に借り手が破綻しようとローンの担保である住宅が
値上がりすれば貸し手は損をしないから債券が目減りすることはない。

つまり、個々のリスクは少なく、したがって債券のリスクも小さく、安心して投資できる。
ただ、そうはいっても住宅投資関連だけだと利益も限られるし、枠にも限界がある。

そこで出てくるのがスワップとか、オプションと呼ばれる取引だ。

スワップは映画の肝でもあるCDSで書きたいのでオプション取引について書く。

オプションと言っても標準装備とオプションといったケースのオプションではない。
一定の条件でのオプション=「権利行使」を取引の対象とするもの。

今の円相場はいくらくらいですかね。
1ドル113円くらいでしょうか。
この先どう推移するでしょう。

円高になるか、円安になるか。

ある人、仮にAさんとすると、3か月後の円相場を円安が進み、
1ドル125円と予測しているとしよう。(ちょっと無茶な予想ですが)

大方の予想は円安になっても115円くらいだろうとみているとする。

このとき、Aさんは3か月後に1ドルを120円で買う「権利」を
1ドルにつき1円で10万ドル分買う。(コールオプション)

オプションの売り手は、3か月後に1ドル120円で10万ドル売る約束を
する代わりに、今10万円手に入れることができる。

3か月後、円が121円より安ければ、Aさんはオプションを行使する。

売り手から10万ドルを1200万円で買い、それを為替市場で売り、
投資した1210万円以上の円を手にすることができ、差額が利益となる。
思惑通り125円になっていれば、40万円の利益で投資効率は400%。
もっと円安ならもっと利益が出る。
(為替取引の手数料などは話の都合上無視している)

121円から120円の範囲であれば、投資は1210万円で変わらないが、
オプションを行使して為替市場で売れば回収額は1210万円から1200万円の範囲。
損をするもののその額は0から10万円の範囲となる。

120円より円が高くなっていれば、ドルを市場で買った方が得になり、
オプションは行使しない。この場合オプションを買った10万円は丸損。

つまり、損は最大10万円で、利益の最大はその時の円相場次第の青天井。

逆にオプションの売り手の利益は最大10万円で、損の最大は相場次第の底なし。
それじゃ、売り手のリスクが多すぎて、売る人はいない? 果たしてそうか。

先に書いたように3か月後の円相場は良いところ115円と見るのが大方で、
120円にはならんでしょと見てれば10万円丸儲けの可能性が高い。

仮に120円があるとしてもその確率は1%程度だろう、と思うから
1ドル1円で引き受けたことになる。
(実際の値付けはこんなものではないが、判りやすくするための比喩)

これを1ドル130円でオプションを組むとしよう。
売り手は3か月後の円相場を115円程度、あっても120円で
それも1%程度の確率と見ているわけだから、130円なんてありえない。
万が一にあっても0.01%くらいの確率だと感じているとしよう。

ここに1ドル130円の買いオプションを1ドル0.1円で買いたいという
Bさんが出てきた。
先の計算でいえば1ドル0.01円でも良いくらいだから、売り手は即OKし、
10万円儲けるために100万ドルのコールオプションを10万円で売るという
約束をすることも可能。

こっちは10万円丸儲けだぜ、Bさんは馬鹿だなと思っているかもしれない。
しかし、万々が一、1ドル131円になっていたとしよう。

Bさんは100万ドルを13000万円で買い、13100万円で売る。
オプション代の10万円を引いても90万円の儲け。投資効率は900%。

130円未満ならBさんは10万円丸損で、現実にはその可能性が限りなく高い。

このように実現可能性が低いほどオプション料金は安く設定できるし、
逆に買い手はハイリターンが期待できる。もちろんハイリスクだけど。

まあ、穴馬ほど配当金が高いようなものか。

オプションにはもっと多くのバリエーションが存在する。

例えばバイナリーオプションと呼ばれるものには、円安円高だけを予測するものもある。

例えば3か月後には今より円安になっていると予想し、その予想に100万円賭ける。
円安になっていれば、元本は償還され、配当は1万円だとする。
ただし、もし円高になっていれば、償還後の配当は100円とする。

先の例に比べて安すぎと思うかもしれないが、当たれば3か月で1%は年利4%に相当。
外れても年利換算0.04%の利息が付き元本は保証されるわけで、ローリターンだがローリスク。

詳しくは知らないけど、倍返し/全損なんてやり方もできるのではないか。
つまり、円安なら配当は倍返しの200万円で、円高なら1円も返ってこない、なんてね。

どういう契約がなされるのか、実際のところは知りませんよ。
自分の知識の範囲で仕組みを説明しているだけ。

3か月後には110円から120円の間にあると予測する、なんて賭け方もできるし、
3か月の間に1回でも120円以下になれば勝ち、ならなければ負けのような賭け方もできる。

あ、ごめん、賭け事ではなく投資ですから。
「賭ける」は言葉の綾というか、わかりやすくするための比喩的表現です。

ただ、オプションの設定し方次第で、損する可能性は高いけど少ない原資で
高いリターンの得られるとてつもなくハイリスク・ハイリターン、から
原資は多くいるが、限りなくローリスクローリターンのものまであり得るわけだ。

買い手にとっての勝ちが成立する可能性が高いほどリターンは少ない。
ルーレットでいえば1目賭け>2目賭け>3目賭け>・・・
・・>列>大中小>前半/後半、赤/黒、偶数/奇数、みたいなものか。

ルーレットの場合は、ディーラーの取り分があらかじめ組み込まれている。
数字が0、00、1~36と38個あるのに、1目賭けでも36倍にしかならない。
また、2倍の確率に賭ける場合は0、00はディーラーの総取りになる。
(アメリカン・スタイルの場合、ヨーロッパは00がないタイプ)

しかし、オプションの場合は、ディーラーとプレーヤーではなく、
互いに読みを賭けあうようなものだし、どう転ぶかはオプションの内容と
世の中の動きによるわけで、一定の控除率などあるはずもない、まさに読み次第。

ただ、世の中には想定外のことも起こるし、論理的に推移するとは限らない。
反対取引を組み合わせてリスクを回避し(リスクヘッジ)利益を上げていく。

いずれにしても投資家も無限に金を持っているわけではないので、
証券や債券、オプションなどを組み合わせて、一つの証券に仕立て上げて、
(それこそがデリバティブ)それを売って資金を集めて投資していく。

投資家の思惑通り推移すれば、投資家は勿論デリバティブの買い手も利益を享受できる。

中には思惑外れもあるだろうけど、それも想定してちゃんとヘッジしてあるし、
格付け会社も太鼓判を押している。

元々は住宅ローンだったものも証券化され、オプションを組みこんで、
さらにそれを証券化し、オプション化し、とどんどん膨らませれば、
デリバティブの市場規模はどんどん膨らんでいく。

(この項続く)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 映画「ビッグショート」に思... | トップ | 10分どん兵衛 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画関連」カテゴリの最新記事