時代は昭和25年の東京。父親の形見を売ったお金で酒を飲み女と遊び自由気ままな生活を送りながらも、旧家の長男としての責任を果たすために母親が違う姉妹夫婦や弟、自分の愛人を巻き込んで自分勝手にぶんぶん振り回す話。
ゴローちゃん演じる「ぼっちゃま」が強烈。女と酒にだらしない、1人じゃ淋しくて何もできないから姉妹夫婦と弟を呼び付けて本人は叱咤激励してるつもりなんだけど周りは不愉快になるだけ、戦後から数年経っているのに時代に乗り遅れてる・・・・と、とんでもない男のはずなのに、なんでだか憎めない。
結婚しても他の女に手を出すなんて不誠実極まりない行為なのにそれぞれの女への愛から感じられる誠実さ、逃げ出すことはカッコ悪いと知っていながらそれでも逃げ出す潔さ、姉妹夫婦や弟がぼっちゃまの財産目当てと知りながら、金を与えその先にある心のやりとりを追い求める純粋さ、この複雑さが矛盾することなく魅力として備わっているのが「ぼっちゃま」なのです。
そして、この「ぼっちゃま」を見守るのが白石加代子さん演じる乳母の千代さん。ぼっちゃまの理解者で絶対的な味方です。千代さんの「ぼっちゃま」という呼びかけと、「千代さん」と答えるぼっちゃまの空気感がスゴく良いのです。この2人だけ、世間から取り残されてるというかズレてる感じがするんだけど、この2人を見てると「それでも幸せならいいじゃないか」「生きていく強さがあればいいじゃないか」と思えてきます。
基本はホームドラマで笑いあり、涙あり、最後はこの時代を前向きに生きていくために必要な強いメッセージを感じます。2時間15分、夢中になって見ました。河原雅彦さんの演出はリズム感があって、全く飽きないです。舞台俳優としてのゴローちゃんの魅力がおもいっきり詰め込まれた脚本とそれを舞台上で輝かせる演出が見事な作品。間違いなくゴローちゃん史上、最高に素敵な作品です。ぜひぜひ、再演してほしい。もう1回!どころか、2回でも3回でも見たい
劇場入りする前まで「今回の席は悪いなぁ・・・」とかなり凹んでたのだけど、実際の席配置を見てビックリ。パルコ劇場ってA列の前にXYZ列を配置してるんですねぇ。そんなわけでZ列の私は前から3列目。かなりの至近距離でゴローちゃんの粋なぼっちゃまっぷりを堪能しました
。カーテンコールで「今日は雨が降ってるので、髪がチリチリです。」という「らしさ」溢れる挨拶をしたかと思えば、「雨が降ってるから気をつけてお帰りください。」と観客への思いやりも忘れない。こんなゴローちゃんだから応援したくなるんですよね。笑顔で手を振るゴローちゃんからはとっても優しさが感じられました。