日本による台湾の植民地支配を論じた学術論文を紹介しよう。
1、『日本近代史要説』 高橋幸八郎、永原慶二、大石嘉一郎編 東大出版会
「日本の植民地では、台湾、樺太、関東州、朝鮮のいずれにおいても、その植民地支配の最高責任者には、当初、きわめて高位の軍人をあてていたことに象徴的に示されるように、軍事的な抑圧による支配を大きな特徴としていた。」
「日本政府は米騒動で露呈された食糧危機を、階級対立の激化に直面して地主制を解体して、米の増産をはかったり、勤労大衆の民主主義的要求を保障したりする道をとろうとはしなかった。そうではなく植民地である朝鮮や台湾から系統的に米を収奪することによって本国の食糧危機対処しようとした。」
2、『講座 日本歴史』10 近代4 歴史学研究会 日本史研究会 編 東大出版会
「アジアの中のファシズム国家」須崎慎一
「日中全面戦争の開始は、朝鮮・台湾で民族抹殺の『皇国臣民化(皇民化)』政策を急激に展開させる画期となった。」
「台湾の場合も朝鮮との共通点が多い。一つは青年の組織化(38年台湾連合青年団結成)、と勤労奉仕への動員というパターンである。第二には、『皇民化』のためには『内地人』の『移植』が必要という意識の存在。第三に、戦勝が『皇民化』に不可欠という認識がみられることである。」
3、『講座 日本歴史』 8 近代2 歴史学研究会 日本史研究会 編 東大出版会
「日本帝国主義と軍部」 村上勝彦
「台湾植民地経営は、1898~1906年の第四代総督児玉源太郎ー民政長官後藤新平のもとで、従来の討伐一本槍から、本格的統治へと大きく転換した。以後長期的方針のもとに植民地化の基礎構築が行われ、台湾は日本の植民地分業体制のなかに組みこまれていく。」
「児玉、後藤の三大経済施策は、土地調査事業、縦貫鉄道建設、基隆築港の三つで、その資金源の台湾事業公債の引き受け機関として台湾銀行が設立され、、他方、阿片、食塩、樟脳の三大専売制が布かれた。」
4、『岩波講座 日本歴史』 近代4
「日清戦争」中塚明
「台湾を領有しても植民地経営はおろか、その反乱そのものさえ有効に鎮圧できなかった。・・・(児玉源太郎、後藤新平のもとで)・・・軍事一点張りの鎮圧から、いわゆる『土匪招降策』をとるとともに、保里制度を復活し、島民相互を監視せしめようやく反乱鎮圧の目途をつかんだ。」
5、『岩波講座 日本歴史』 現代1
「韓国併合と初期の植民地経営」 原田勝正
「日清戦争によって獲得した台湾の統治は、最初の植民地として、その統治法式のモデルケースにされた感がある。」
6、『日本帝国主義の形成』井上清著
「これらの植民地をどのように支配したか、日本最初の植民地台湾のことからのべよう。」
「台湾統治はこの軍事支配を基礎とするが、他の植民地支配とは違って、ここでは第4代総督児玉源太郎中将、民政長官後藤新平の組み合わせのときから、総督政治の運用面で軍による民政支配をやめた。・・・ただしこの民政は徹底的な警察政治であった。」
新聞広告では「台湾は植民地ではなかった」という、歴史修正主義まる出しの著作が出版されるという。歴史修正主義の歴史の改ざんはとどまることを知らない。
この分野のさらなる研究の進展と、一般むけ単行本の刊行が待望される。