・氷塊のせめぐ隆起は限りなしそこはかとなき青のたつまで・
「冬木」所収。1962年(昭和37年)作。
佐藤佐太郎が「作歌の足跡-海雲・自註-」で「青のたつまで」と表現したのに「自身やや満足をおぼえた。」と言っているが、むしろ「そこはかとなく」(副詞:佐太郎のいう「虚語」)が効いている。冷たさ、寒さ、静寂。これらが同時に伝わって来る。
「そこはかとなく青のたつまで」。一度聞いたら忘れられない。もともと歌というくらいだから、耳からおぼえやさすいというのは、秀歌ということ。
また上の句の「せめぐ隆起」は、流氷の擦れ合う、鈍い音が聞こえるようだ。
由谷一郎「佐藤佐太郎の秀歌」では直接とり上げられていないし、佐太郎の自註も淡白だ。だが、この一首がオホーツク・流氷の一連33首(3部立て)のなかで一番の秀作と思う。色彩感、聴覚の感受が鮮明で、印象深い。
作者、作者に近しい人の選んだものが代表作とは限らない。その好例だろう。
なお「氷海」(3部作の1つ)には次のような作品もある。
・雪道に薪と馬橇(ばそり)とおきてある部落は宇登呂(うとろ)氷海の岸・
・人の住む宇登呂も白き海のきし修理船の音油のにほひ・
・蓬(よもぎ)など雪よりたてる岬山(さきやま)に白き氷の海をみさけつ・
・氷海のかぎりをなして知床の岬見えをり雲のごとくに・
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