「夜の林檎」所収。「星座」の「選者の欄」にコメントつきで初めて紹介された作品。そのコメントは「小さき人の姿をよく捉えています。」だった。
とある小学校の運動会。1年生の40メートル徒競走でのこと。「00ちゃん頑張れ!」と声をかけた。走っている最中である。その子はまっすぐ前を向いて走っていればいいのに、チラリとこちらを見た。その途端追い越されたのである。
声を懸けなければよかったと思ったものだが、実は僕にも経験がある。スタート後しばらくは先頭だったので、チラリと横を見た。
その瞬間追い越された。たまたま僕の父が見にきていたのだが、「よそ見するから追い越されるんだ」とあとになってからかわれた。その記憶と重なって作品となった。
子どもの言動はときに大人をハッとさせ、思わぬところに気づかせてくれる。それを心にとめるかどうかも、身のまわりでの小さな発見である。