「現代短歌」2019年11月号 「特集・旅の歌」。
僕に依頼されたのは「西行や芭蕉に関する論文またはエッセイ」だった。西行、芭蕉と言えば「みちのく」。ここには古代、能因法師が訪れている。近代は、正岡子規も訪れており、斎藤茂吉の故郷でもある。
そこでこの地をめぐった、歌人、俳人とその作品を紹介することとした。
「短詩形文学を育んだ旅」
冒頭だけ紹介する。
1・「みちのく」の位置
「みちのく」はフロンティア・未開の土地だった。
古代の東北地方は、古くは「道奥田」(道奥国の誤植)のちに「陸奥国」と表記され、「みちのくのくに」「むつのくに」と呼ばれた。その「陸奥国」からは、のとに「出羽国」が分離する。
それらの国は、平安中期に至っても中央の支配が及ばず、「蝦夷」(えみし)の支配する地域だった。「蝦夷」(えみし)は政治的、文化的概念で、人種的概念の「蝦夷」(えぞ)=アイヌとは異なる。辺境の地にあって中央の支配に服さない人々を「蝦夷」(えみし)と呼んだのだ。
文化的異空間。それは現代の作家の多くが、海外に取材するののも似ている。日常からの離脱でもある。
これが序章。以下三章にわたって、能因法師・西行・芭蕉・斉藤茂吉・正岡子規の順に論じた。紙数がなく、正岡子規については数行しか書けなかったが。
これらの作者の「みちのく」の関係、短歌と俳句の感性の差異、和歌・短歌の表現の変遷は俯瞰できたと思う。