侮辱罪の法廷刑に懲役刑を加えて厳罰化する法案が、今国会に提出されました。
今回の法改正は、ネット上における誹謗中傷の深刻化を防ぐことを主な目的としています。ここ数年ネット上の誹謗中傷がエスカレートし、自死に追い込まれる被害者を生むようにまでなっている状況は、看過できません。ネット上の誹謗中傷により、個人の尊厳が踏みにじられるような状況を改善するために、一刻も早く対策を取るべきです。しかしながら、侮辱罪が表現行為を罰するものである以上、その厳罰化によって言論・表現の自由が不当に制限されることがあってはならない、と私たちは考えます。権力者や政府の政策等に対する批判・批評が規制される事態を強く憂慮します。
侮辱罪の厳罰化において、ネット上の誹謗中傷問題の解決と、表現・言論の自由の不当な侵害の回避を両立するためには、本来、慎重な議論を積み重ねばならないはずです。ところが、今回の改正案は、法制審議会で実質2回、合計2時間の議論のみでまとめられたものです。最低限必要な議論すらなされているとは思えません。
日本ペンクラブが加盟する国際PENは、PEN憲章4条で「会員たちはみずからの属する国や社会、ならびに全世界を通じてそれが可能な限り、表現の自由に対するあらゆる形の抑圧に反対することを誓う」と宣言しています。
表現者の集団として、日本ペンクラブは、今般の侮辱罪厳罰化によって言論・表現の自由が脅威にさらされることを懸念し、国際基準に鑑みた更なる慎重審議を強く求めます。
2022年4月7日
一般社団法人 日本ペンクラブ
会長 桐野夏生