岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

佐藤佐太郎46歳:能登の海を詠う

2010年09月08日 23時59分59秒 | 佐藤佐太郎の短歌を読む
・能登の海ひた荒れし日は夕づきて海に傾く赤き棚雲・

 「地表」所収。1955年(昭和30年)作。

 佐太郎の第5歌集「帰潮」の主題が「貧困の悲しさ」だとすれば、第6歌集「地表」の主題は「自己凝視の深さと透明感のある叙景歌」である。

 掲出歌に難解な語は一切ない。見事に景が顕つだけである。しかし、そこに独特の抒情が漂う。

 仔細に検討してみよう。

 初句・二句と「荒れた能登の海」が表現され、三句以下で穏やかな景が立ち上がってくる。一首の中に転換があるのである。


 岡井隆は「星座52号」で、尾崎主筆と対談し、

「佐太郎さんの作品は読んでいるうちに、< あれ、そうなるの? >というところがあった」

と述べているが、まさにこれにあたる。


 声調は穏やかである。しかし穏やかでなければならない、とは言わない。現に漢語を厳しく使った弟子に賛辞をあたえているし、次の様な言葉も残している。

 「歌は< 響長く >と言うのがよいという私の意見だが、(歌を)作る時はそういうことも考慮しないで、ただ力をつくすだけである。そういうわけで、私の例などは参考にもならないだろう。」(「短歌の本Ⅱ」)

 「あるときは切実に、強烈に、あるときは太く大きく、またあるときは微かに、鋭く、すべて生に即して直接に詠嘆しようとしたので、これが叙情詩としての短歌だ。」(「小詩短章」)





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