岩田亨の短歌工房 -斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・短歌・日本語-

短歌・日本語・斎藤茂吉・佐藤佐太郎・尾崎左永子・社会・歴史について考える

「白き水仙」:日本歌人クラブ会報「風」180号より

2013年06月30日 23時59分59秒 | 岩田亨の作品紹介
「白き水仙」

・鳥の声に森の深きを思い居り住宅建設予定地のなか・

 
 何年か前に、逗子の米軍住宅建設予定地を訪問したときの体験に基づいている。所謂「池子の森」である。住民の方が反対運動をなさっていたのだが、それを実地に見に行ったときのもの。案内の方が「ここからが『池子の森』です」といった瞬間に、鳥の声が聞こえ、切り通しから湧き出る地下水が豊かになっていることに気がついた。それは一つの発見であり、驚きでもあった。


・寂寞の心おさえて歩みゆく雨降る道に蒲公英が咲く・

 慎ましく、しかも逞しくさいている蒲公英は、地味だが美しい。悲しい時も癒される感じがする。ややセンチメンタルになってしまったが、僕の好きな一首である。



・邪心なき人は尊し見巡りに白き水仙活ける日曜・

 邪心のない人間がいるだろうか。そんな人はいないか、稀だろう。誰もが「悔い」「悲しみ」「欲望」を持っている。そんな時、人間の葛藤が起こるのだが、花を活けると心が浄められるような気持になる。この場合活けたのは「薔薇」だったが、詩としての効果を考えて「水仙」にした。佐太郎の言う「虚」である。


・窓外に見える夕空かすみ居て手術前日桜散りたり・

 この四月に胆嚢の切除の手術を受けた。病棟の食堂は西向きで夕日が見える。入院はおのれの命を考えさせられる。偶然だが、手術の前日に満開だった桜が散り始めた。それが何とも言えない感慨を想起させた。それを詠んだ。


・贖罪の心持ちたしわが過去の記憶の中の汚れぬぐいて・

 三首目と主題は似ているが、こちらの方が、やや強い感じがするかもしれない。だがこれが今の偽らざる心情である。


 今回初めて、歌人クラブの会報の編集部からの依頼で、作品を発表した。さて佐太郎の言う「表現の限定」「象徴性」「音楽性」がどの程度達成出来ただろうか。





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