・苦しみを内に持てれば現実のつづきの夢を吾は見てゐし・
「地表」所収。1953年(昭和28年)作。
佐藤佐太郎は寡黙だったそうである。それがときおり家族や親しい者を強く叱りつけることにつながったという話も伝わっているが、内面の葛藤は相当なものだったようだ。
その傾向は貧困時代の「帰潮」の時代のみならず、読売文学賞受賞・新聞歌壇選者となり著述業が軌道に乗ってきたこの時期でも変わらなかったようだ。厳しい自己凝視である。
また、「現実のつづきの夢を見る」というのも珍しい。そんなことはあるはずがない、とつい最近まで思っていたが、同じような経験をした。今から一週間ほど前のことである。
このことはまた別の記事に書くつもりだが、物事を真剣に考えるとこういうこともあるようだ。おそらく、体は眠っても脳だけは眠っていないのだろう。
また著述業というのは実に厳しいものである。行き詰っても何の保証もない。賞を受賞して新聞歌壇の選者になっても、それはその時だけのこと。むしろ賞を受賞してからの方が辛い面があるかも知れない。
受賞歴という荷物を背負うという場合もあるだろう。人間なにが幸せか分からないものだ。一般の市民生活をするのもまた、様々な困難を伴う。
自己凝視も深い。楽な人生などというものは、ありえないということだろう。