2014年「現代万葉集」 日本歌人クラブ NHK出版刊
<東日本大震災を詠う>
・騒がしき議場映せる中断のさなか激しく大地は震う
東日本大震災があったのは、僕が退院した日だった。急性肝機能不全。その退院の日にパソコンへ向かってブログを更新していた。そのさなかに大きな揺れが来た。たしか国会中継をつけっぱなしにしていた。民主党への政権交代のあとで、自民党が、激しい野次を飛ばしていた。揺れはまさにその時に来た。
国会中継が中断されたが、議場の混乱ぶりと震災の出来が、何か因縁めいていて、印象に深く刻まれた。
・被災地が賽の河原に見ゆるとぞ老僧は言う目を閉じて言う
震災後、ある寺のご住職が言った。震災では多くの犠牲者がでたが、それを悼む老僧の言葉だった。応仁の乱の京都で、時宗の僧侶が、鴨川の河原に横たう死体に、一ずつ卒塔婆を置いて行ったという故事が思い出された。
「目を閉じて言う」ところに、敬虔な宗教者の祈りを感じた。
・発癌の原因物質と聞きしかどウルトラヴァイオレットの名前美し
ウルトラヴァイオレットとは紫外線のこと。震災で大量の放射性物質が放出された。これが原因で癌が多発しているとの情報がネット上に溢れている。真偽のほどはわからない。しかし発癌と言えば、紫外線の浴び過ぎも原因の一つだ。
オゾンホールが破壊されて、北欧では、夏の日光浴が控えられているとも聞いた。被災地では、太陽の光が恵みをもたらすが、紫外線は発癌の原因でもある。それにしてもウルトラヴァイオレットという言葉は美しい。そこに何か逆説的なものを感じる。
*東日本大震災に直接結びつく言葉、「津波」「放射性物質」「原発」「地震」「避難」「仮説住宅」「復興」などを使わずに表現してみた。ここにいくらかの工夫がある。*
*昨年の出詠歌は叙景歌だった。毎年テーマを決めて出詠している*