・おしなべて聖樹飾れる家の間に灯さぬ窓はユダの末裔
「彩紅帖」所収。
「黒人街」と題された一連の作品の一つ。「ユダ」はイエスを裏切った弟子。黒人街で貧困家庭は「聖樹」とある「クリスマスツリー」も飾れず。窓の明りも灯せない。それを作者は「ユダの末裔」と表現した。
ボストンの黒人街が目に浮かぶ。「ユダ」を扱った作品はほかにもある。「最後の晩餐」の絵画のなかで指を立てている「ユダ」を詠ったものだ。そこには「権威」に抗う者への共感のようなものがある。
それゆえ、この作品は「黒人街の貧困」を嘆いているように感じる。心を寄せているのだろうか。
地名と時刻は「捨象」されている。「表現の限定」「言葉の削ぎ落し」。
全体に痛々しい情感が満ちている。海外への滞在をへて、作者が日本語、日本の古典文学を見直すきっかけとなった時期の作品だ。