平氏(のちに「平家」と呼ばれる)が政権に就いたのは保元の乱、平治の乱、この二つの乱を勝ち抜いた後のことである。。
保元の乱、それに続く平治の乱の遠因は天皇家が、上皇(院)と天皇とに分裂したことにある。保元の乱の崇徳上皇と後白河天皇、平治の乱の後白河上皇と二条天皇。この二組の上皇と天皇。この二度に渡る分裂が乱の遠因となった。
それとほぼ同時に藤原家も分裂した。一方は関白忠通、そしてもう一方は彼の父親の忠実と忠通の弟の左大臣頼長である。そして保元の乱のあとに続く平治の乱では、既に政治力を失っていた摂関家に替わり藤原家の傍流同士の院の近臣が対立する。即ち藤原信頼と藤原憲通(信西)の対立である。
院(上皇、出家すれば法皇)に政治権力が集中した専制政治の下で旧来の政治体制では時代の変化にそぐわなくなってきたのである。分裂したそれぞれの陣営が武士を動員し、京の都で大規模な軍事衝突が二度に渡って繰り広げられた。
いわば古代国家の政治権力が歪みが頂点に達したのである。古代は一般に平安時代までを指す。平安時代は土地所有の形態で言えば荘園制の時代である。(荘園と公領とが同質とみて「荘園公領制」との学説もある)開発領主(かいほつりょうしゅ)と呼ばれる全国にこうした土地の開拓者がいた。
その多くは富を蓄え、配下の者に実際に土地を耕させられる地方の豪族であった。端的に言うと地方で農場経営をする者たちだった。古代国家の律令では世が治まらなくなったのだ。地方で配下の者たちに土地を耕させ、農場を経営することを律令は想定していなかった。
地方では、やがて土地の境や領有権をめぐって、お互いに争う様になった。この利害の衝突に決着をつけるのに現代の様に法律により裁く事は出来なかった。この時代に土地の所有を定めた法律などはない。
土地をめぐっての争いは必然的に、武力衝突になっていった。開発領主たちは家人や下人に武器を持たせ総員が武装した。これが武士の発生である。この武士は当時、武者とも呼ばれ、またこの武士は集団を形成し武士団となる。この武士団を全国規模で率いるのが武家の棟梁だ。
清和源氏の系統の河内源氏と、桓武平氏の系統の伊勢平氏とは、この武家の棟梁である。ここでは単に源氏と平氏と呼ぶ事とする。
つまり「在地の領主=在地の武士」の利益を保護しなければならないのが武家の棟梁なのだ。この時代、実際に土地を支配しているのは現地の武士だった。源氏も平氏も直接に土地を所有してはいない。現地の武士を通しての間接的な支配だった。だから現地の武士の利益を図れなくなった時に源氏も平氏も武家の棟梁ではなくなる。
そこで源氏は東国を基盤に着実に現地の武士を配下に組み入れ主従関係を結んでいった。数十年に及ぶ藤原摂関家(藤原氏嫡流)との繋がりを保ちながら、武家の棟梁としての自覚を強めていったのだ。源氏の棟梁と地方の武士との土地を介した主従関係が確立されていったのである。
これに対し平氏は西国を基盤としながらも、中央政界での栄達=官位が上がることによって中央政府の政治権力を握るのに成功した。在地の武士との主従関係も平清盛との個人的な関係であることが多く、平氏は、徐々に朝廷の貴族、公家となっていった。また平氏は時の権力者、院政を敷く上皇や法皇に接近していった。逆に平氏と地方の武士たちとの距離は次第に遠のいていった。
平清盛が死んだあと、平氏は源氏に滅ぼされるが、この在地の武士団を配下に組み入れていたかどうかの違いがかかる結果をもたらしたともいえよう。
だが大河ドラマの平氏と源氏とは共に「武者の世」を目指す同志(友)として描かれている。平氏が「平家」と呼ばれるようになるが 、「平家」と呼ばれていったのは平氏が武家から次第に公家化していったのを意味する。源氏と平氏(平家)ではこれだけの違いがある。
実は西行の苦悩の原因もこの辺りにあった。西行は元は(出家する前は)北面の武士、佐藤義清(憲清=のりきよ)だった。だが複雑なのは、元々は公家である藤原家の傍流の出であった。つまり西行は、いや西行の出た佐藤の家は「公家→武士」となり、西行は「武士→僧侶」という道を辿ったのだった。近世の江戸時代と違い身分も家制度も固定化はされていなかった。動乱の時代ゆえ、オノレのあり方を誰もが問うことになる可能性があった。ところが大河ドラマでは待賢門院との「不義密通」が隠しおおせなくなった、という単純な設定になっている。つまりドラマが「勧善懲悪」の著しい傾向を示しているのである。
平氏は最後は公家となり、源氏は武家の棟梁であり続けた。西行をめぐっての出来事も公家と武家との相克にあった。
公家が凋落し武家が台頭していくこの時代のことを考えれば、平氏(平家)が源氏に滅ぼされたのは時代の当然の帰結だと言えるだろう。また西行の描き方も、もっと違ったものになってもよかった筈だ。
NHKの大河ドラマは、その辺りを描き切れていないのではないだろうか。