招かれざる客、はやく切りたい電話。こういうものは、よくあるものだ。しかし、「もう切るぞ」とか「もう帰って」とはなかなか言えないもの。そういうときに、色々と理由をつける。
「お鍋がふいちゃった。」「お客さんが来た。」「ちょっと取り込み中で・・。」など様々な言葉遣い。
一見ずるそうだが、「やんわりと断る知恵」とも言える。
そんな場面を一首にしてみた。
「運河」誌上の選者による「選歌余滴」にとりあげられた作品は、他にもいくつかあったが、これを第一歌集の巻頭4首に入れた。それは、「ケトルの笛」という表現が気に入ったからで、カタカナ語の清涼感が活きていると判断したから。完了の助動詞「ぬ」は余り好まない。なぜなら、やや古風に過ぎる感じがするのと、粘着質的な語感を持つからだ。
「潮時」という表現も「俗にかたむく」と言われたが、「ケトルの笛」がそれらを十分打ち消しているとおもった。
案の定、「運河」の「歌集特集」で、注目作としてあげられていた。
カタカナ語の清涼感を活かす。ただし、「それを支えるものと、工夫がなければ、洒落ただけの作品になる」とは常々指摘されるところ。
この一首の場合、「潮時」の<俗へのかたむき>と、「ぬ」の<粘着性>が、「ケトル」の語の軽さとのバランスを果たしているのではないかと思う。